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episode7. 蜘蛛からの挑戦状(4)

「ここか――。氷川フォトスタジオ」  ビルを見上げながら麗がつぶやく。ふと目をやれば、ビルの入り口のプレートにも”氷川ビルディング”と名称があった。  氷川の事務所というのは自社ビルのようだ。規模は小さいが、この都心に自前のビルまで持っているところからすると、氷川というのはそれなりにやり手の写真家なのだろうことが窺える。 「ふぅん? 遼二の師匠ってのは案外たいしたもんなんだな」  麗は半ば感心の面持ちでビルの中へと踏み入れた。スタジオは二階のようである。エレベーターも一応設えてあったが、すぐ上の階なので階段で行くことにする。 「こんにちはー……お邪魔致します」  まずは卒なく倫周がそう声を掛ける。ドアに鍵は掛かっていなかったものの、事務所の中には誰もいない。――が、奥の方の部屋から数人の話し声らしきが聞こえてきたので、倫周を先頭にして二人はそちらへと歩を向けた。おそらく談話室か応接室のような部屋なのだろう、事務所との間に扉はあるが開けっ放しのようで、中の話し声は筒抜けだった。 「あ、よかった。人がいるみたいだよ! すみませ……」  倫周が声を掛けようとした瞬間、麗がギュッと彼の腕を掴んで制止した。 「ちょっと待て」 「何? どうしてさ?」 「しばらくここで奴らの話を聞いてみようと思ってな」 「はぁ!? まさか盗み聞きでもしようっていうの、麗ちゃん!?」  倫周が呆れたように小声で言う。 「人聞きの悪いこと言ってんじゃねえ。この方が偵察には都合がいいと思うだけだ」 「偵察って……! またそんなこと言って!」 「とにかく黙って言う通りにしてろ」  麗は壁際に置いてあった鉢植えの陰に身を潜めると、倫周にも早く隠れろと目配せをする。 「……たく、もう! どうなったって知らないからね、僕は!」  舌打ちをする倫周を放っておいて、麗はしばし中の様子に聞き耳を立て始めた。  麗の調べた通り、今日は紫月の引退記事の撮影について話し合われているようだ。声の感じからして面子は氷川ともう一人は中年の男、つまり中津川だ。その対面に座っているのは、チラリと垣間見える後ろ姿が華やかな雰囲気の男――彼が紫月に違いないと麗は思った。隣にいるもう一人は彼の付き添い人だろうか、皆が『社長』と呼んでいるようなので、おそらくは紫月の所属事務所の代表が来ているのだろう。時折、遼二の声も聞こえていた。ということは、五人で打ち合わせ中といったところか。麗と倫周はしばしおとなしく様子を窺うことにした。 ◇    ◇    ◇

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