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episode7. 蜘蛛からの挑戦状(7)

「つか……今、”息子”って言わなかった? レイ・ヒイラギって結婚してたんかよ!」  中津川が麗の後ろにいる倫周をマジマジと見つめながらあんぐり顔だ。そんな様子に麗は苦笑気味ながらも、しれっと肩をすくめてみせた。 「まあね。若気の至りってか、こいつが産まれた直後に嫁は男作って逃げたけどな。それ以来、俺は女がダメになっちまってさぁ。ま、そのお陰で俺は今……」  悪気なく暴露する麗の注釈に、 「ちょっ……麗さん……!」  遼二が慌てたようにして話の続きを制止した。何とも曰くありげな二人の様子に皆は不思議顔だ。 「それよか遼二の知り合いってマジなのか!? ……って、どんな知り合いなの……?」  中津川が気を利かせてそう訊くも、遼二本人も突然の麗の押し掛けにワケが分からずといった調子で、苦虫を嚙み潰したような表情で固まってしまっていた。――が、そうも言っていられない。 「すみません皆さん、お騒がせして。あの……この人は自分の……」  なんとか気を取り直して遼二が口を挟めば、 「家族――みてえなもんだよな?」  麗がニヤッと不敵な笑みを浮かべながら遼二と紫月を交互に見やった。 「あんたが一之宮紫月か? なるほど――写真も色気があったが、実物はまた期待を裏切らない色男のようだな」  そのまま――紫月から視線を外さないままで――麗はまだ勧められもしない椅子にドカリと腰を落ち着けた。 「なあ、紫月。お前さんの相手、俺が()るんじゃ不満か?」  意味ありげに口角を上げて上目遣いでそう訊く。すると、紫月よりも先に遼二の方が話に割って入った。 「麗さん! あんた……ちょっと待ってくださいよ。いきなり何なんスか!」 「まあ、そう怒るな。何も取って食おうってわけじゃねえよ。それよりお前ら、ボス役がいなくて困ってんだろ? 俺だったら年齢的にもちょうどいい配役だと思うんだけどなぁ」  いけしゃあしゃあと麗は笑った。すると、その申し出に飛び付いたのは紫月のところの社長だった。 「あの……! 本当にやっていただけるんでしたら、私としては有り難い話です。確かに……ヒイラギさんがおっしゃるようにボス役としての年齢もちょうどいいですし、何より貴方のようなイケメンさんなら読者受けも最高だと思うんですよね」  この上ない話だと、社長はすっかり乗り気の様子だ。当の紫月に対しても、『お前さんもそれでいいだろう?』とばかりにワクワクと目配せをしている。 「はぁ……あの……」  紫月は紫月で、麗と遼二を交互に見やりながら即答できずに困惑顔だ。まあ、突然の話だし、それで当然だろうとばかりに麗が再び口を開いた。 「じゃあ、例えばこんなのはどうです? 先程聞きかじった台本だと、組織を裏切った紫月をボスが仕置きがてら陵辱するとかおっしゃっていましたが、それだけじゃありきたりだ。この際、ボス――つまりは俺と紫月で一人の男を取り合うってのは?」  意味深に笑いながら麗は言った。 「取り合う……とは?」  社長は麗の話に興味を示したようだ。 「先ず、紫月が組織を裏切ることになった原因からですが、好いちゃならない男を好いてしまう。相手の男は……そうだな、マトリ――つまりは麻薬の取締捜査官とかがいいかな」  面白そうに、そして少々得意げにしながら、麗はその場の皆にストーリー展開を説明し始めた。

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