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episode7. 蜘蛛からの挑戦状(8)

 話を要約するとこうだ。  裏組織の幹部だった紫月は、ある事件で麻薬取締捜査官の男と知り合いになった。密売組織との取引中に相手側から裏切られ、窮地に追い込まれて怪我を負ってしまった紫月を助けたのがそのマトリの男だった。立場的には相容れない間柄の二人だったが、紫月は密かにその男に惹かれていく。  だが、その事件をきっかけに、紫月のボスである男もマトリに一目惚れしてしまう。  紫月の気持ちを知らないボスは、マトリの彼を罠に嵌めて、捜査官という立場から引きずり下ろす策略を巡らせていた。彼から職を奪い、自分の側に置くためだ。  そのことに気付いた紫月は組織を裏切る決心をし、マトリのもとへと向かう。その途中でボスの手下に捕まって暴行を受けるという流れだ。  その後、ボスは予定通りまんまとマトリを罠にかけ、彼を手中に入れるが、その心までは奪いきれずにいた。何故なら、マトリの彼もまた紫月を密かに好いていたからだった。  それを知り、業を煮やしたボスは彼に催淫剤を盛り、紫月の目の前で彼を物理的に我がものにしようとする。  欲に逆らえなくなった彼が自らを抱くところを紫月に見せつけようとするわけだった。 「さあ紫月、どうする? お前だったらこの状況でどうやって愛する男を助けるんだ?」  クスッと意地悪げに笑いながら、麗は紫月を見やった。 「お前さんもプロだろう? ここから先はアドリブで惚れた男を俺から奪い取ってみせろ」  余裕綽々の上から目線でそう言う麗に、紫月はクッと眉根を寄せて押し黙る。だが、社長は麗の提案に興味津々で身を乗り出した。 「素晴らしい! 素晴らしいですよ、ヒイラギさん!」  これなら読者も次の展開に心躍らせてくれそうだと大乗り気だ。と同時に、麗の差し出した挑戦に紫月ならば受けて立てるだろうと瞳を輝かせている。だが、そうなると新たな問題がまたひとつ――。 「けどよ、だったらそのマトリの役ってのは誰が()るんだ?」  ふと中津川がそう呟いたのに、皆は一斉にハタと互いを見やった。 「だよな。ストーリー展開は確かに魅力的だが、マトリ役を新たに探さなきゃならねえんじゃ、振り出しに逆戻りだ」  氷川も溜め息まじりだ。――と、麗が再び面白そうにとんでもないことを口走った。 「そうだな……。生真面目で気立てのイイ男。密かに紫月に想いを寄せながらも、まんまとボスの手中に堕とされる男。遼二、お前さんが()ったらいんじゃねえか?」 「ええ――ッ!?」  度肝を抜くような麗の提案に、その場の皆が揃って驚きの声を上げた。

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