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episode7. 蜘蛛からの挑戦状(9)

「何もそんな驚くこっちゃねえだろ? こいつ――遼二はガキの頃から俺の撮影を見て育ったんだ。モデルの何たるかは嫌と言うほど理解できてるだろうし、それにこいつ自身も子役モデルとしての経験もある。もってこいの配役だと思うがな」  麗の言葉に一同は目を丸くして驚き、一斉に遼二へと視線が集まる。 「マジでか? お前、モデルやってたことあるのかよ!」  中津川が瞳をパチパチとさせながらそう訊いた。 「いえ……確かにそういう経験もあるにはありますけど、そんなの本当にガキの頃のことですし……」  戸惑う遼二だったが、紫月のところの社長はまたもや大乗り気の様子だった。 「それは素晴らしい案ですよ! 実はドンの役をどうしようかって時に、彼のことも頭にあったんですよ。氷川さんにご相談してご許可がもらえれば、彼……遼二君に紫月の相手役を頼めたらと思って……」  だが、急にそんなことをお願いするのも図々しかろうと躊躇していたというのだ。 「遼二君は抜群のルックスですし、紫月が引退ということにならなければ相手役としてスカウトしたいと思ってたくらいなんです」  まあ、正直なところ新米カメラマンの彼にそんな打診をしていいものかどうか遠慮はあったのだが、社長としては遼二を一目見た時から非常に気になっていたらしい。 「実際、本格的なゲイモデルとしてスカウトするのは氷川さんの事務所に対しても悪いかと思って諦めていたんですが、今回一回きりということでなら……如何でしょうか? 遼二君を貸していただけたらたいへん有り難いのですが……」  あれよあれよという間に話がどんどん具体化している。当の遼二は無論のこと、紫月も呆気にとられたように立ち尽くすのみだった。 「そうですね……。俺個人としては遼二がいいなら異存はねえが……」  間の悪いのを打ち破るように氷川がポツリとそう言うと、 「なら決まりだな。きっといい作品ができるんじゃねえか?」  麗がすっかり場を取り仕切る。 「や、あの……ちょっと待ってください……! 俺は……」 「嫌だなんて言わねえだろ? それともなにか? お前、マトリの役を他の誰かに譲っても構わねえってか?」  麗がダメ押しするように畳み掛ければ、 「それは……」  遼二もつい口籠もらされる。 「お前だって今までの話の流れを聞いてたろ? どこの誰とも知らねえ新規のモデルが紫月の相方を()ったとしても、すぐには上手く馴染めるとは限らねえ。幸い社長さんも氷川さんも同意してくださっていることだし、ここはお前が一肌脱ぐのが日頃世話になってる恩返しってもんだろうが。紫月だってこの遼二が相手なら()りやすいだろう?」  今度は紫月に向かって意味ありげに笑う。 「……俺は、その……」  無論、紫月としても話自体に異論はなさそうなものの、ゲイアダルトの世界に遼二を巻き込んでもいいものかどうかと、戸惑う様子が見て取れた。

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