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episode7. 蜘蛛からの挑戦状(10)

「それとも何だ、アダルトのノウハウが掴めなくて自信がねえってんなら、俺が一からレクチャーしてやるぞ? 懇切丁寧に手取り足取り、実践交えて指導してやってもいいぜ?」  紫月の方にチラリと視線をやりながら、麗が挑戦的且つ高飛車な態度で遼二をそそのかす。 「催淫剤を盛られて欲情マックスの表情のつけ方から、反応じてイくまでの妖艶な仕草とかさぁ?」  上目遣いで遼二と紫月を交互に見やりながら麗は笑った。すると、 「いえ、結構です。レクチャーなら俺がします。遼二が……本当に演ってもいいって言ってくれるなら、演技の指導は俺が……というよりも、二人で話し合ってどんな作品にするか考えたいと思います」  きっぱりと言い切った紫月の瞳には意思の強さが見て取れる。スランプに陥る前の自信たっぷりの彼が蘇ったかのようだった。  そんな紫月の様子に麗は不敵に微笑むと、 「ほぅ? 」  満足そうにうなずいてみせた。 「で、お前はどうなんだ遼二」  紫月が承諾したのを受けて、当の遼二へも挑戦的な笑みを投げ付ける。――と、彼もまた快諾したのだった。 「紫月さんが――、皆さんが俺でいいとおっしゃってくださるのなら、精一杯()らせていただきます」  そう言って真摯に頭を下げた。 「じゃ、決まりな! ストーリー的な流れはさっき話した感じでいいと思うが、詳しい内容は後でメールしておく。それから当日のヘアメイクは息子の倫周に担当させたいと思うんですが、よろしいでしょうか?」  一応、紫月のところの社長に向かってそう訊くと、彼も勿論と言って快諾した。  結局、麗が取り仕切る形で、あれよという間に紫月の引退特集をまとめてしまったのだった。 ◇    ◇    ◇ 「けど、さすが麗ちゃんだね! ちょっと皆の話向きを聞いただけで撮影のストーリーから配役まで決めちゃうんだからさ。快進撃って言ってもいいくらいだったじゃない?」  帰りの車の中で倫周が感心顔でいた。チラりとバックミラー越しに視線をやれば、 「ふん――」  麗が言葉少なながらも満更でもなさそうな表情でいる。 「でもちょっと意外だったなぁ。だって麗ちゃんたら進んで遼二君を紫月君の相手役にするんだもの。僕はてっきり麗ちゃんがあの二人に横恋慕っていうかさ、ちょっと意地悪なことでも考えてんのかなーって思ったりしてたからさ」 「横恋慕って――それじゃ俺が悪者みてえじゃねえか」 「ふふ。麗ちゃんって、口じゃ何だかんだとドギツイこと言うけど、ホントのところはやさしいっていうかさ。これも愛情の裏返しっていうか、麗ちゃん特有の照れ隠しなんだよねー」 「バカ言え。俺はそんなひねくれモンじゃねえぞ」  ツンと唇を尖らせながらも頬を朱に染めた後部座席の彼を、倫周は可愛らしいなどと思って微笑むのだった。

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