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episode7. 蜘蛛からの挑戦状(11)

「息子の俺が言うのもナンだけど、麗ちゃんっていつまでたっても可愛いんだよねー」 「可愛いって……お前」  それ、父親に向かって言うことかと若干頬を膨らます。そんなところが可愛いのだと言いたげに倫周は笑った。  先程、麗自身も氷川の事務所でチラっと漏らしていたが、倫周が生まれると間もなく母親の方は他所に男を作って蒸発してしまった。麗は若気の至りだと言っていたが、その後、男手一つで赤子の倫周を大切に慈しみながら育ててくれたのだ。倫周本人としては物心ついた頃から親といえば麗一人だったので、特には寂しいという思いもしたことがなかったのだが、それもひとえに麗の大いなる愛情のお陰だということに成長してから気付いた。故に倫周にとって麗は父親である以上に特別な信頼のおける相手なのだった。肉親ではあるが、外見も性質もいつまでも若々しい麗は、倫周にとって良き親友のようでもある。まさにかけがえのない唯一無二の存在だった。 「――にしても、紫月君ってホントに綺麗な人だったよねぇ。ちょっと麗ちゃんに顔立ちが似てるかも」 「……そうか? 俺の方が男前だと思うけどな」 「顔立ちもだけど、雰囲気もあるし、パッと見てすぐに彼には目を奪われるっていうかさ。華やかで、まるで蝶のようなイメージっていったらいいかな」 「蝶って……お前、そりゃ褒めすぎだろうが」 「紫月君が蝶なら、麗ちゃんは――さしずめ蜘蛛ってところかなぁ」 「はぁ!?」 「だってそうじゃない。紫月君のみならず、彼の事務所の社長さんや氷川さん、それに遼二君にだって『うん』と言わせちゃうんだから。蝶を絡め取る蜘蛛! なーんちゃって」 「――言い方!」  ケラケラと明るく笑う倫周を一喝しながらも、麗は呆れたように片眉を上げてみせた。 「はいはい! でも紫月君、あんなに綺麗でカッコいいのに、鼻に掛けたようなとこもなくてさ。あれなら遼二君のお相手として麗ちゃんだって安心したんじゃない?」 「……まあな」  倫周はのほほんと率直な感想を口にしているようだが、うなずけないわけでもない。麗なりに少々意地の悪い言い方を交えつつも紫月がどういう反応を見せるかなどを観察していたわけだが、麗としてもほぼ倫周の見解と一緒だった。 「確かに――。俺が遼二にマトリの役を振った時に紫月がどう出るかと思ってはいたんだが……。ヤツは最初躊躇してたろ? 遼二をゲイアダルトに引っ張り込んでもいいもんか迷ってるってな態度だった」  あの場で『是非そうしてくれないか』などと猫撫で声を出すような男なら、遼二に対する想いよりも自分の立場の方が大事なのだろうと思えるが、紫月は本心から戸惑っている様子だった。そんな態度を見る限り、彼の想いもそう軽々しいものではないのだろう。この撮影を最後にゲイアダルト界を引退するということからしても、遼二との仲を真剣に考えているからなのだと思えた。 「――ま、俺にとっちゃ遼二が辛え思いをしなきゃそれでいい。紫月に取られるのはある意味癪でもあるが……二人が想い合ってんなら仕方ねえしな」  要は真剣な想いで二人が共にいたいと思うのならば、麗としても多いに認めたいということなのだろう。窓の外に視線をやりながら、どこか安堵し、それでいて少し寂しそうな顔付きも隠せない。そんな麗をバックミラー越しに眺めながら、倫周はふっとやわらかに微笑んだのだった。 - FIN - ※次、ラストエピソード「お前だけのモデル」です。

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