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episode8. お前だけのモデル(7)
「なに、ちょっと趣旨替えをするだけだ。このマトリは既に理性を失った獣も同然だ。その獣の餌食に紫月をくれてやろうと思ってな」
強烈な薬に支配された男にとって、あるのは目の前の獲物を貪る欲だけだ。愛情や思いやりなど欠片も残ってはいないだろう。
「望み通り野獣と化したこの男に存分に痛ぶられるといい。愛も恋も、好きも嫌いもねえ。ただめちゃくちゃに犯し犯されて二人で地獄に堕ちるなら本望だろうよ」
そうして一時の欲情を解放したものの、時間が経ってみれば、遼二の中にはひどい後悔が残るだろう。少なからず想いを寄せる紫月に対して、如何に薬に惑わされたとはいえ無体な犯し方をした事実は、後々になっても深い自責の念となって彼を苦しめるに違いない。逆に紫月にとっては愛情のかけらもない犯され方をしたことで、遼二に対する想いが恐怖や疑念となって気持ちが離れていくかも知れない。
どちらにせよ、二人が互いを傷つけ合うのは目に見えている。麗はそう踏んだようだった。
「おい、マトリの縄を解いてやれ」
部下たちにそう命じると、麗はドカリとソファへ腰を下ろした。
「見せてもらうぜ。たっぷりとな」
お前ら二人が壊れていく様をな――
そして自由を取り戻した遼二の身体を紫月に向かって放り投げた。
「遼二……! 遼、すまねえ……。俺のせいで……」
紫月は苦しげな彼を抱き起こしながら謝罪の言葉を口にしたが、今の遼二にはそれが聞こえているのかも定かでないほどに錯乱状態の様子だった。突き上げる欲情に支配され、その視線は闇色に揺れていて、まさに獲物を欲してやまない獣のようだ。彼の黒曜石のような瞳の中にはギラギラと燃えさかる焔が今にも爆発しそうな勢いだった。
「遼二……辛えか……? 待ってろ、すぐに楽にしてやる……!」
紫月が薬物に侵された彼の雄を口淫で解放せんと、そこに顔を埋めた時だった。
「ダ……メだ……紫月……ッ、俺から離れろ!」
「遼二……?」
「離れてくれ! じゃねえと、俺は何するか分からねえ……! お前を……」
そう、めちゃくちゃに貪って傷つけてしまうだろう――!
「……ンなこと……は、したくねえ。頼むから今すぐ俺を置いて……お前はここから逃げろ」
床に這いずり、身体を丸めてもがきながらも片方の手で紫月を押しのけるように突き飛ばした。
「行け……! 早く……」
さもないと本当にこのままお前を犯しかねない――!
苦しげに吐息を乱しながら欲情の波と戦う。そんな彼に紫月はブンブンと首を横に振った。その双眸からは無意識にあふれ出た涙が頬をぐっしょりと濡らしていた。
「俺は……構わねえ……あんたが楽になれるんなら全然構わねえ……! 何されたっていい! あんたになら……」
どんな扱いを受けようが、例え愛情のかけらもなく貪られようが本望だ!
紫月は再び彼を抱き起すと、震える手でその頬を撫で、自ら唇を重ね合わせた。
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