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episode8. お前だけのモデル(13)

 その日の夜、紫月は遼二のアパートメントのベッド上で、その逞しい腕に抱き包まれていた。  撮影終了後の二人は、演技中での絡みシーンも引き金となってか、互いを欲する熱に侵されていた。共演者やスタッフらとの挨拶も早々に引き上げたいくらいに、胸中は逸っていた。とにかく早く二人きりになりたくてウズウズしていたのだ。  そんな思いのままに遼二の部屋へと舞い戻った二人は、無我夢中で互いを貪り合ったのである。帰宅後、玄関の扉を締めると同時に靴も脱がないままで唇を奪い合った。  晩熟だ何だと言われてきた遼二だが、紫月の引退撮影が済んだこともあってか、これまで彼に対してあったクライアントを立てるという遠慮の壁が払拭されたように、恋する男の熱情部分が強く顔を出す。何のしがらみもない中で、一人の男として紫月に向き合うことができた瞬間だったのだろう。  紫月もまた同様で、高飛車に取り繕ってきた気負いがなくなってみれば、存外素直に愛する男の胸へと飛び込むことができたようだった。  そうして数時間もの間、夢中で互いを求め合った二人は、既に深夜のベッド上で夢うつつにまどろんでいた。  遼二が利き腕の中に紫月の頭を抱き寄せ、もう片方の手でユルユルと絹糸のような髪を掻き上げる。時折、額にチュッと軽くキスを落とし、腕の中の愛しい相手を見つめる瞳は、そこはかとなくやさしい笑みであふれていた。 「けど今日の撮影、お前ほんとにすごかったよな。俺も今までそれなりにプロ意識を持ってやってきたつもりだったけど、完全に食われちまいそうになったっていうかさ。お前もだけど、レイ・ヒイラギさんの演技もすご過ぎて……俺、まだまだだったんだなって実感したっつーか……さ」  紫月が照れ臭そうに苦笑する。  遼二の方は思いもかけず褒められたことで急に出会った頃の互いの立場を思い出したわけか、我に返ったようにして頬を朱に染めた。 「……んなことありませんよ……! 俺はもう……すげえ必死でしたし、最後の紫月さんとの絡みなんか……みっともねえこと暴露するようですけど、本気でヤバい気持ちになっちまって。我に返ってからは……足引っ張ってねえだろうかって、自己嫌悪でグルグルしてました。もう頭に血が上っちまったようにワケ分からず状態でしたよ」 「はは、マジ? そうは見えなかったけど」  紫月はクスクスと笑った。その笑みは穏やかで、安堵の中にも幸せだという気持ちが滲み出ているようだった。 「俺さ、ゲイモは金の為に始めたことで――心底望んで入った世界じゃなかったけどよ……。でも、最後の仕事をお前やレイ・ヒイラギさんっていうすげえ人たちと共演することができて良かったと思ってる」 「紫月さん――」 「幸せな幕引きだったって。それに――この世界に入ってなきゃ、お前とも出会えなかったわけだし……さ?」  紫月は甘えるように遼二の胸の中へと顔を埋めた。

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