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episode8. お前だけのモデル(12)
「よし! いいぞ! 二人とも、ここからは表情にスポットを当てて重点的に撮るぞ! 特に紫月、最愛の男に抱かれてイく瞬間の表情を頼む!」
緊張感もマックスの現場にカメラマン氷川の声が響き渡る。無論のこと、これらはすべてストーリーの脚本に従った演技であるわけだから、遼二も紫月も実際に性を交えているわけではない。だが、二人の迫真ともいえる絡みは見事で、周囲のスタッフたちにはまるで映画さながらと思えるほどだった。氷川もまた、そんな二人を最高のショットで切り取らんと、いつにも増して真剣な眼差しでシャッターを切っていく。その反対側では中津川が別角度からの連写で二人の演技を画面へと収めていった。
そしてまた、一足先に出番を終えた麗もこのクライマックスの瞬間を見守っていた。その脇にはヘアメイクの倫周も胸前で両手を組んだまま、演技の行方に興奮状態でいる。
「すごいよ、すごい……! とても演技とは思えない! 紫月君は勿論だけど、遼二君も本当の男優さんみたい!」
小声で独り言のように言い、感動の眼差しを見張る倫周に、
「ったりめえだろ? 遼二のヤツにはこの俺様がここしばらく寝ずの勢いで演技指導してやったんだ。あれくらいできて当然だ」
半ば憎まれ口ながらも、満足そうに瞳を細めている。
「つーかよ、その前に俺の演技への感想はねえのかー?」
麗はプッと頬を膨らませながら、呆れたように口を尖らせた。
「え? ああ、勿論! 麗ちゃんのボス役もサマになってたよー! まさに意地悪感モロ出しで、ふてぶてしくて良かった」
「はぁ!? ふてぶてしいって……お前、相変わらずだな、言い方!」
「ええー? 僕は素直に褒めたつもりなんだけどなぁ」
麗と倫周が呑気な言い合いをする中、遼二と紫月の撮影も無事にクランクアップとなったのだった。
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