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episode8. お前だけのモデル(19)

 数日後――  紫月は遼二に連れられて、彼の父親が経営しているというモデル事務所にやって来ていた。  出迎えてくれたのは麗である。彼の息子の倫周も一緒だった。 「よう、二人共来たか! こないだは世話になったな」 「こんにちはー!」  麗は相変わらず高飛車ともいえる堂々ぶりで、軽く片手を上げながらニッと口角を上げる。倫周もまた、人の好さ丸出しといった調子でにこやかに挨拶をしてよこした。 「こちらこそ皆さんには本当にお世話になりまして、ありがとうございました」  遼二に軽く肩を抱かれながら、紫月もまた丁寧に頭を下げた。 「例の件、承諾してくれたんだってな?」  今日は先日のボス役の時とは打って変わって、純白のシフォンのブラウスに白いテーパードパンツという妖精さながらの服を身に纏った麗がニヤッとしながら紫月に目配せをした。 「はい――。あの、とても有り難いお話をいただいて……。俺に務まるのか不安もあるんですが……皆さんの足を引っ張らないように精一杯やらせていただく所存です」 「ふ――、その点は心配するな。この俺がそれこそ手取り足取りで”実技交えて”教えてやるさ」 「あ……りがとうございます。よろしくお願いします!」  緊張しているのか、深々と頭を垂れながら固めの表情でいる紫月に近寄ると、麗はポンポンとその肩を撫でた。  こうして二人並ぶと、麗と紫月は実によく似ている。背格好もさることながら、美形の上に色香が垣間見える顔立ちといい、ふわふわとやわらかい天然癖毛ふうのミディアムショートといい、後ろ姿だけ見ればどちらがどちらか分からないほどだ。まあ、紫月の側にはまるで騎士のようにして遼二がぴったりと寄り添っているので、すぐに彼の方が紫月だと分かるくらいに印象が似ていた。 ――すると、後方から突然声が掛かった。麗とも倫周とも違う、低めのバリトン――声だけで色気を感じさせられてしまうような男らしい美声だ。その主を目にするなり、紫月は『あ――ッ!』と小さな声を漏らしてしまった。  そこには遼二を少し渋くしたような、彼とよく似た顔立ちの長身の男が深く静かな眼差しを讃えて佇んでいた。何の説明を受けずとも、きっと彼が遼二の父親なのだとすぐに分かってしまうくらいよく似ているのだ。 「よく来てくれた。先日はうちの麗が世話を掛けたな」  にこやかに、そして穏やかに発せられる声はまさに余裕を感じさせる大人の男といった感じである。紫月は、しばしポカンとしながら遼二の父親と遼二本人とを交互に見やってしまった。 「一之宮紫月君だな。初めまして、遼二の父親の鐘崎僚一だ」 「あ……はいッ、初めまして! 一之宮紫月です!」  ガバッと半身を折るほどに深々と頭を下げた紫月を見て、麗がクスクスと頼もしげに笑ってみせた。

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