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episode8. お前だけのモデル(18)

「けどさ、ホントにいいのか……? 俺、ゲイモやってたわけだし、ファッションモデルになるっていっても……お前の親父さんやレイ・ヒイラギさんの迷惑になっちまうんじゃねえかって……」  アダルト誌のモデルだったという過去が少なからず妨げになることもあるかも知れない。紫月はそれを気に掛けているようだった。だが、遼二はすぐに取るに足らないことだと言って一笑した。 「そんなこと全く気にしなくていいです。紫月さんがこれまでされてきた仕事は素晴らしかったんです。写真集ひとつとっても本当に綺麗で、まさにプロでした。隠したり恥じることなんて微塵もありません!」 「……お前にそう言ってもらえるンは……うん、確かに嬉しいけどよ」 「気にされるなら親父と麗さんにも訊いてみてください。俺と同じことを言うはずです」 「ん、さんきゅ……」 「紫月さん、よろしければ一度親父に会ってくださいませんか? モデルになるかならないかは、それからゆっくり考えていただければいいです」  真剣な眼差しで言ってくれる遼二のことが、紫月には何より嬉しかった。 「ん、うん――。遼二、その……さんきゅな。俺、何つったらいいか……上手く言えねえけど」 「いえ。俺の方こそ、強引にいろいろ押し付けちまってるようで……その、失礼があったら申し訳ないと――」 「ンな……失礼なんかあるわけねって! マジで俺、こんな棚ボタな話はねえっていうか、俺なんかにそこまで言ってもらえて……信じらんねえくらいなのに」 「棚ボタなんて言えるほどのことじゃないス! ホントに小さい事務所ですし、紫月さんならもっと大きな所で脚光浴びられると思うんですけど……。ただ、俺が――」 「……ん?」 「俺が――一緒に居たいってだけの我が侭なんです。紫月さんが親父の事務所に来てくれたら……その、安心ですし……。って、こんなこと言ったら束縛モードに入ってるみてえで情けねえんですが」  語尾にいくに従って弱々しい声音になっていく遼二を、紫月はポカンと見つめてしまった。要は父親と麗の元に置いておくなら安心できるということなのだろう。思いも掛けない遼二の嫉妬心や束縛心に触れて、紫月はそこはかとなく心温まる気持ちにさせられてしまった。 「遼二……」 「すいません……。なるべく、その……縛ったり妬いたりとかしないように心掛けますんで」  頭を掻きながらも照れ臭そうに苦笑する遼二の胸に飛び込んだ。 「いいよ……。お前になら縛られてやるさ。お前になら何されたって、俺……」 「紫月さん――好きです……!」 「ああ。俺も――」  大好きだ――――!  とうに深夜を通り越し、カーテンの隙間からはかすかな蒼色が垣間見える。もうあと一時間もしない内にやわらかな秋の日が昇るだろう。  静寂の中で二人、ひしと抱き合い互いの温もりに包まれながら、幸せで心地好い眠りへと落ちていったのだった。 ◇    ◇    ◇

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