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episode8. お前だけのモデル(16)

 遼二からおおよその話を聞き終えたところで、紫月は驚きつつも納得させられるものがあったようだ。 「そっか……。それであの人、レイ・ヒイラギさんがお前のこと、家族みたいなもんだって言ってたってわけか」  遼二の父親と麗がそんな昔から共同生活を送ってきたのなら、そういう見解も当然といえる。 「そういえば……思い出した。確かあの時も……レイさんって人、そんなこと言ってたっけ」  紫月はふと思い付いたように瞳を見開いた。 「――あの時って何です?」 「ん、ああ……。今だから暴露しちまうけど……実は俺、以前にお前とあのレイ・ヒイラギさんが二人でいるのを見掛けたことがあってさ」 「え!? そうだったんですか?」 「ちょうど俺の三冊目の写真集の撮影の打ち合わせでヒカちゃんたちとメシ食った帰りだった。ホテルの地下駐車場でお前らが一緒にいるのを見たんだ」  その時に麗が言っていた言葉を思い出す。 『ガキの頃はいつもお前から抱き付いてきて、すげえ可愛かったのによ――』  遼二の父親と麗が家族も同然に暮らしていたのならうなずける話だ。――が、それと共に麗は遼二にしがみつきながら、こうも言っていた。  『抱いてくれよ』と――。  ここしばらく遼二と想いを打ち明け合ってから甘い雰囲気に浸っていてすっかり忘れていたが、あの時、確かに麗がそう迫っていたことを思い出した。  紫月はわずか遠慮がちながらも、チラリと上目遣いにそのことを打ち明けた。 「あの……さ。そん時、あの人……お前にかなり衝撃的なことも言ってたんだよ……」 「――? 衝撃的なこと――ですか?」  遼二は覚えていないのだろうか、不思議そうに首を傾げている。 「お前に抱き付きながら、抱いてくれとか……」 「え――!?」 「あん時は……お前ともまだそんな親しくしゃべったこともなかったし、正直すげえ驚いたっつか、焦ったっつか……さ」  それを聞いて遼二もようやく思い出したのだろう、『ああ――!』と言って、すぐに苦笑した。 「あれは……冗談です。あの人、子供みてえなところがあるんで、たまにああやってダダこねたりするんです。いつものことなんですよ」 「そうなのか?」 「あの時はちょうど親父が――」  そう言い掛けて、遼二は一瞬ためらうように言葉をとめた。

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