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episode8. お前だけのモデル(21)
それから数日後、紫月の事務所入りとモデル登録も無事に済んだ頃――。遼二の住まうアパートメントでは部屋の改装作業で朝早くから賑わいをみせていた。集まったメンバーは遼二に紫月、僚一に麗、それに倫周も一緒だ。
遼二の部屋のすぐ下の二階部分は、これまで物置として放置状態だったわけだが、そこをリノベーションし、紫月用の社員寮にすることになったのだ。それもこれも息子の遼二と紫月の仲を知った僚一からの大いなる愛情のこもった計らいだった。
「部屋の造りは上の階の遼二の所と同様でいいだろう。新たにユニットバスと洗面所にトイレ、それに簡易キッチンもな。壁紙も貼り替えた方がいいな。電気の配線なんかは紫月の使いやすいよう位置の希望があったら遠慮なく言ってくれ」
僚一の指示でリフォーム業者との打ち合わせが詰められていく。
「へえ、いいなぁ。まさに新婚生活じゃねえか。俺もちょくちょく泊りに来させてもらおっかなぁ」
麗が羨ましそうにそんなことを口にする。
「何言ってんの、麗ちゃん! お邪魔虫は無粋ってもんだろー?」
倫周がケラケラと笑いながら釘を刺せば、
「お邪魔虫ってなぁ、言い方!」
「はいはい、分かってますって!」
相変わらずにくだらなくも信頼感あふれる親子の言い合いが朗らかだ。遼二も紫月もそんな二人を横目に、クスッと目配せをしながら微笑み合うのだった。
「紫月さん、家具は午後からでも一緒に見に行きましょう。冷蔵庫とダイニングテーブルに椅子なんかは新調しましょう。電子レンジとかも必要だな」
「ん、さんきゅな。俺ン部屋から持って来られるもんもあるし、足りないのは追々買い足せばいいしさ」
「そうですね。あー、そうだ。ベッドは――必要ないッスよね? 俺の部屋の、十分デカいですし」
少々照れ臭そうに遼二が頬を染める脇から、麗がニュッと二人の間に割って入った。
「マセたこと抜かしてんじゃねえ。なあ、おい紫月! 一応ベッドは買い揃えてもらった方がいいぞ。何なら就職祝いってことで俺が買ってやるわ。痴話喧嘩した時に寝るトコがないんじゃ困るだろ?」
麗はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべてそう提言する。
「失礼だな、麗さん! 俺らは痴話喧嘩なんかしませんよ!」
ふてくされる遼二の様子がまるで子供のようで、紫月はプッと噴き出しそうになってしまった。
「あー、でも……そうッスね。俺、今までは床に布団の直敷きだったし、一応ベッドは買おうかな」
「ええ!? 紫月さんまでそんな……!」
「いいじゃん。親父さんやレイさん、倫周さんが泊りに来てくれる時とかさ、必要だろ?」
そう言った紫月に、麗は上機嫌で彼の首筋に腕を回して抱き付いた。
「さすが紫月、俺の後継者だけあってよく分かってるじゃねえか! 遼二もなぁ、ちったー紫月を見習えよー?」
「はぁ!? 何言ってんスか、あんたは!」
今度は麗と遼二の間で”くだらない”戯れが始まっている。
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