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episode8. お前だけのモデル(22)

「それよりさ、引っ越しの日には氷川さんや中津川さんもお手伝いに来てくれるそうだよ。もちろん僕らも!」  倫周がそうまとめたところで、業者との打ち合わせを終えた僚一が皆のところへ戻って来た。 「お! そろそろいい時間だな。これから皆で昼飯に出掛けるとするか」 「いいねー! 俺さぁ、今日はイタリアンな気分かなぁ」 「麗ちゃんは相変わらずパスタ党だよねー」 「お洒落な俺様にぴったしだろうが?」 「ふふ、お洒落とか自分で言っちゃうところが――ね?」 「おいこら、倫周! 言い方!」 「はいはーい!」  たわいもない明るい笑い声に包まれる中、遼二と紫月はこの穏やかで温かい輪の中で共に居られる幸せを噛み締めていた。 「な、遼二――」 「はい?」 「ありがとな。俺、まさかこんな日が来るとは思ってもみなかった……」 「紫月さん――」 「じいちゃん亡くして独りになって、その日その日に流されるように……特に目標も夢もねえままやってきたけど……。お前に出会えて、親父さんやレイさん、倫周さんのようなあったけえ人たちにも出会えて……マジ幸せ。ホントに俺……」  まるで新しい家族ができたみたいだ――! 「俺も――です。紫月さんを好きになって、でも到底手の届かねえ高嶺の花だって諦めてて……。まさかこんな日が来るなんて夢のようです」 「――ん、俺も」 「俺、これから写真の方も一生懸命やります。今まで以上に努力して、いつか紫月さんを撮らせてもらえるように――氷川さんや中津川さんに負けないようないい写真が撮れるようにがんばるつもりです」 「ん、俺もいいモデルになれるようがんばるよ。お前に撮ってもらうにふさわしい――いいモデルになれるように」 「はい――。はい! 俺も紫月さんに置いてかれねえようにがんばります」  そう、互いに夢に向かって切磋琢磨し、努力を惜しまず精進し、いつでも横を見ればそこに互いがいる幸せを噛み締める。 「遼二――」 「はい」 「俺はずっと――この先ずっと……」  お前だけのモデルだから!  その言葉に代えてとびきりの笑顔ではにかんだ紫月の手を取り、遼二はやさしく、そして力強く握り締めたのだった。 - FIN - ※次オマケ小話「氷川と中津川の昼飯トーク」です。

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