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第4話
「はぁ…」
お店で溜息を吐くと、毎朝、モーニングを食べに来る小島さんが苦笑いしながら
「何?又、蓮君と喧嘩?」
そう言って新聞を手にする。
「もう…何を考えてるんだか…」
もう一度溜息を吐くと、小島さんは笑いながら
「ハルちゃんが真面目すぎるんだよ。子育ては、大らかな心が大事だよ」
って言った後
「とは言え、俺は子育てを奥さんに任せっきりだったから分からないけど」
って爆笑してる。
僕が苦笑いしていると、お店のドアが開く。
「いらっしゃいませ」
笑顔で入口を見ると、最近、良くうちのお店に来るサラリーマン風のイケメンが来た。
姿からみると、おそらくそこそこの役職なんではないかと思う。
年齢は30代前半という感じで、身に着けているスーツは何処かのブランド物っぽい。
「ブレンド」
彼はそれだけ言うと、鞄からノートパソコンを取り出して何やら仕事をしている。
僕はコーヒーを淹れて彼のテーブルへ運ぶと、モーニングのトーストとサラダを置く。
彼は厚めのパンにバターを塗り、その上にベーコンと目玉焼きを置いたのがお気に召したらしい。
いつも美味しそうに食べている。
僕はスーツを汚さないように紙エプロンも置いて、仕事の邪魔をしないように席から離れる。
「それにしても…蓮君は寂しいんじゃないの?朝も7時から営業しているだろう?一緒に居る時間が少ないからさ…。俺は有難いけど、モーニングを止めたら?売り上げにもならないでしょう?」
小島さんが提案した瞬間、イケメンサラリーマンの手が止まる。
ジッと見つめられて、僕は苦笑いを返す。
「確かに、モーニングは元々、蓮を引き取った時に支えてくれた皆さんへの感謝で始めたけど、今じゃ楽しみにして下さっている方もいらっしゃるから」
そう返事をした。
「真面目だな~」って言いながら、小島さんは笑ってコーヒーを飲み干すと
「じゃあ、俺は仕事に行くね~」
ってお店を後にする。
「ありがとうございました。いってらっしゃい」
そう言って小島さんを見送ると、テーブルを片付ける。
今日は珍しく、イケメンサラリーマンと僕だけになってしまう。
いつもなら、常連さん達と近場の会社のOLさんが居るんだけど…。
僕が食器を洗っていると
「蓮君と言うのは…君の弟か何かなのか?」
いつもは決して声なんて掛けて来ない彼が声を掛けて来た。
僕が苦笑いしながら
「僕の息子です。高校に入ってから、反抗期で困ってるんですよ」
そう答えると、彼は驚いた顔をして
「え!きみ、若そうに見えるのに、そんなに大きなお子さんが居るの?」
と叫ばれてしまう。
僕が苦笑いしてうやむやにしようとすると
「そうか…。きみは…結婚しているのか…」
と、残念そうに呟かれた。
会計をする時も、僕の顔を見ては「はぁ…」と溜息を吐いて出て行った。
「ありがとうございました」
僕は笑顔で見送り、後片付けをしながら首を傾げる。
(何だったんだ?一体?)
意味不明な行動に疑問を持ちながらも、テーブルを片付けて食器を洗いながら午後の準備を始める。
僕は両親に製菓の専門学校へ通わせてもらっていた。なので、15時から販売しているケーキは僕が作ったケーキになる。
ただ、家の事やモーニングをやっているので、そんなに数は作れないけど…。
クッキーとシュークリーム。季節のタルトを置いているだけだが、中々お客様からは評判が良い。ランチで賑わう近場の飲食店を横目に、いつもの常連さん達がご飯を食べた後にうちでコーヒーを飲んでくれるのも本当に助かっている。
「ハルちゃんの淹れるコーヒーは旨いからな」
その笑顔だけで、毎日、朝早くから正直大変だけど頑張れている。
そんな時、お店に一本の電話が入った。
近くにある会社の会議で、うちのお店のコーヒーを出前して欲しいという依頼だった。
ただ、うちは蓮が学校から戻るまでは僕が一人でやっているので、出前は無理なんだよね…。
大変申し訳なかったのだが、丁重にお断りをさせて頂いた。
最近、うちのお店の評判を聞いて、色々と有難いお話を頂くが、手広くすればそれなりにリスクを伴うので全てお断りしている。
お店の小さなショーケースに今日の分のスイーツを陳列していると、お客様が入って来た。
「いらっしゃいませ」
笑顔で出迎えると、若い女子高生が2人入って来て
「え~、まだいないじゃん」
「中で、来るまで待ってれば良くない?」
って会話しながら入って来る。
あれは…蓮目当ての女子高生だ…。
僕はメニューを持って行きながら
「ごめんね。今日、蓮は部活があるから来ないけど…大丈夫?」
と確認を取る。
すると鞄からメイク道着を出していた彼女達は
「マジで?じゃあ、帰ります」
って、そそくさと退散していった。
僕は溜息を吐きながら、彼女達に入れた水とメニューを持ってカウンターに戻る。
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