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1.雨降り
午後三時過ぎだった。
机の引き出しに入れておいた個人のスマートフォンが振動したのがわかった。僕は引き出しを開け、手帳型のカバーを開く。
妻の彩子 からだった。
仕事中、電話はかけない約束をしている。メッセージではなく、なぜ電話を?
ためらっている時、突然あちこちからアラーム音が鳴り響き、事務所が揺れ始めた。
「地震だ!」
社員たちが口々に言い合う。
震度にして三くらいか。長い横揺れだ。
地震が治まると、管理職から念のためサーバールームのマシンの確認を求められた。
僕は引き出しを閉めて、サーバールームへ向かった。
午後七時、僕が帰宅する時、雨が降り出していた。
遠くで雷鳴が聞こえ、雨脚も強い。
駐車場で傘をたたみ、車に乗り込むだけの間で、雨に打たれた。
運転席でほっとした時、僕は彩子から電話があったことを思いだした。
今頃は夕食の仕度中だろうか。
自宅の電話にかけてみた。十回ほど呼び出し音を鳴らしたが出なかった。今度は彩子のスマートフォンにかけてみる。こちらも同じだった。
僕は胸騒ぎを感じて、車のエンジンをスタートさせた。
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