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金曜日には花を買って 【後編】

【修復】 身躯を繋げてから、夏彦と弓弦は一緒に寝る様になった その気になったら愛し合う 静かに寝る日もある 夫婦みたいに仲良く寄り添い生活していた 結ばれてから、3年過ぎた 夏彦は今も高校の教師を続けていた 弓弦は大学に合格して、今年大学2年になる そんな頃、夏彦に塾の講師にならないか?と言う誘いがあった どう言う訳か……夏彦の姉の晴香からの誘いだった 『夏彦、あんた大阪に戻っておいでよ! 塾の講師にならないかって誘いがあるのよ?どう?』 「………姉さん、私だけで決められません」 『あぁ、拾ってくれた少年ね あんたが少年となんて想ってもいなかったけど、あんたは独身だからね、構わないわよ』 「………姉さん……それって何処からの情報ですか?」 『修一よ?あら?違うの?』 「………違いませんが……修一がうちに来た時は何もありませんでしたよ?」 『修一は何かを感じたのよ そして認めた、だから私達に教えた! 修一とその子LINEとかで話してるんでしょ?』 「………姉さん……私は知りません……」 夏彦の情けない声に晴香は笑った 『夏彦、戻っておいで…… 私はお前が死なないでいてくれて本当に嬉しい 父さんや母さんだってそう思ってる そろそろ良いと想う……』 「………姉さん……私は許されませんよ? それだけの事をして来たのです 皆は許してくれても……私は自分を許せません……」 『………夏彦、許そうよ…… 冬樹も秋人も心配してるよ? 修一だって…栄一と瑠璃子だって……あの子達にとったら…… あんたは父親なんだよ! 父親が生きていると言ったら良かった……と泣いていた 秋人も冬樹もあんたが生きてると教えたら泣いていた 誰もあんたが死んだ方が良かったなんて想ってはいない 今の夏彦ならば傍に来ても上手くやって行けるだろ?』 「………姉さん、弓弦と話し合います どの道避けては通れません 一度大阪に帰ります…… それで決めたいと想います…」 『来る時言ってね あんたかなり有名な教師なんだね 弟だと言うと、うちの塾で働いて貰えないか……と言ってくれてね 大阪に帰るチャンスだと想うわ』 「………姉さん、今週末大阪に帰ります……」 『大阪に到着したら教えてね』 「…解りました……」 夏彦は電話を切った後に溜息を着いた 夏彦が電話を終えるのを待っていた弓弦は夏彦に抱き着いた 「……何かあったのか?」 「『………大阪に帰らないか?』と言われました」 「……帰るの?」 弓弦は泣きそうな顔をした 「私が帰るとしたら弓弦も一緒ですよ? 離れられるのですか?私と?」 「……夏彦がいなきゃ……死にたくなる…」 弓弦はそう言い夏彦に口吻た 「……弓弦…私の…話を聞いてくれませんか?」 「……聞く……その後に……俺の話を聞いてくれる?」 「ええ。聞きます」 「なら話して……」 「私は藤崎興産と言う建築会社を経営してました 父が興した会社でした 私は社長に収まるや否やする暴君な君主として会社に上り詰めた 邪魔な姉をレイプして……黙らせた 私は高校時代に結婚して妻がいました なのに言い寄る女と遊びまくり、捨てて来ました 会社が大きくなる為なら政略結婚もさせた 家族や兄弟は駒でした 思い通りにならない事はなかった 私は人の話を聞く人間ではなかった…… 人をゴミくずみたいに扱って……君臨し続けた暴君でした 君と出逢った時、私は会社を潰しました 大阪で再就職しようとしたのですが……私を使う会社はなかった 最低な自分しか残らなかった現実に疲れていたのです…… 私はそんなろくでなしの人間だったのです……」 夏彦は総てを話した 「嫌いになりましたか?」 夏彦が尋ねると弓弦は   「ならねぇよ!」と叫んだ 弓弦は夏彦に縋り付いた 「……夏彦……俺の話を聞いてくれ……」 「ええ、聞きますよ」 「俺は……両親を殺したんだ…」 「………え?弓弦?」 「俺が寄り道して帰らなかったら……父さんと母さんが俺を探しに出る事はなかった 俺が……寄り道しなきゃ……父さんも母さんも死ななくてすんだんだ…… ばあちゃんはお前が殺したんだ……と何時も言ってた…… だからばあちゃんの看病をしたんだ…… だけど……ばあちゃんは最期まで俺を許してはくれなかった 俺が殺したんだ……」 「……弓弦……君のせいじゃない」 「夏彦の顔は……そんな何時も諦めて俺を見るばあちゃんの顔みたいだった 哀しそうに……諦めた様な顔してた…… だから放っておけなかった…… 夏彦なら傍にいてくれるんじゃないかって…… 想って拾ったんだ……」 「弓弦、君が拾ってくれて良かったです こんなに君を愛せて良かったです」 「……夏彦……傍にいて…… 俺を離さないで……」 「離しませんよ」 夏彦は強く弓弦を抱き締めた 「……夏彦……離れないで…… 夏彦が年寄りになったら、俺面倒みるから!」 「………私は君に面倒を見られるのですか?」 「うん見る……だから長生きして……」 「しますよ……君の傍で長生きします…」 夏彦はそう言い弓弦に口吻た それが合図で愛撫が始まる 夏彦の指が…弓弦を愛撫する 弓弦は夏彦の性器を舐めた ペロペロ舐めて……危うくイキそうになる程……上手くなった 互いを欲して舐め尽くす そして一つに繋がり…… 互いを抱き締めた この世から弾かれた寂しい魂を持ったもの同士が…… 傷を癒やし合い寄り添う なるべくして出逢った そう思いたい…… 夏彦は弓弦を抱き締め…… 歩み出す決意をした これ以上……なくすものなんて無い 互いを無くさなければ生きていける 「……弓弦……私と一緒に大阪に来てくれませんか?」 「良いよ……夏彦と行く……」 「……まだ大阪に住むかは決めてません…… ですが……逃げて過ごせません 家族に顔を出したいと想います」 「夏彦の傍にいるから…… 俺は何があっても夏彦から離れないから……」 「頼もしいですね」 君がいてくれるなら…… 歩いて行ける 歩み出す勇気を 君がくれるから…… 逃げ去った街へ…… 君と共に…… 行こうと想う 週末に、弓弦と共に大阪に向かう……と、晴香に伝えた 大阪に着いたら電話を頂戴 と晴香に言われた 弓弦と一緒に車に乗り込み大阪に向けて走った 弓弦の瞳は不安に揺れていた 「弓弦……不安ですか?」 「……夏彦には俺がいるから……」 「……ええ。私には君がいます ですから何があっても大丈夫です」 夏彦は笑った 人生に疲れて逃げて来た果てで…… 弓弦に拾われて…… 人生を再び始められた これは奇跡だった 何もかも無くした男を哀れに想った神がくれた奇跡だった 夏彦はそう思っていた ドキドキ……心臓が早くなる 逃げたい想い…… と、両親や兄弟…子供に逢いたい想いが複雑に 夏彦の胸に押し寄せる 許されるのか? 自分のしてきた人生は虚栄に満ちていた その虚栄に満ちた世界に君臨して…… 人を人と想わず生きて来た 夏彦は弓弦を見た 弓弦は夏彦を見ていた 何もかも無くしても… 私には弓弦がいてくれる…… そんな想いが……夏彦を支えていた 大阪に着くと晴香に電話を入れた 「……姉さん……大阪に着きました」 『秋人のお店に来なさい』 「………姉さん……無理です…」 『待ってるからね!』 晴香はそう言い電話を切った 夏彦は困った顔をして弓弦を見た 「……どの顔で……」 夏彦がボヤくと弓弦は 「行こうよ夏彦!」 と背中を押してくれた 夏彦は記憶を辿り秋人の店へと向かった 秋人の店の駐車場に車を停めると、修一が顔を出した 「親父……遅い! 電話して5分もしないで来られるだろ?」 「……修一、少し……気後れしてました……」 「皆待ってるから!」 修一に言われて夏彦は車から降りた 助手席の弓弦のドアを開けて手を差し出す 弓弦は夏彦の手を取り……車から降りた 店の中へ入ると 晴香が亭主の漆原孝人と息子の当麻と座っていた その横に冬樹と父と母が座っていた 夏彦の子供の栄一と瑠璃子も座っていた そして百目鬼命と秋人が夏彦を出迎えてくれた 夏彦は店に入るとみんなに深々と頭を下げた その横で弓弦も頭を下げた 晴香はそんな夏彦に 「椅子に座りなさいよ!」と声を掛けた 夏彦は動けないでいた 弓弦は泣きそうな顔をして…… 夏彦を見ていた 命が夏彦の背中を押して椅子へと座らせた 弓弦をヒョイと掴むとその横に座らせた 母は何も言わず……夏彦を抱き締めた 「逝く前に……逢えて良かった… お前が死んでなくて……本当良かった……」 母は泣いていた 父も静かに泣いていた 「親不孝して……本当申し訳御座いません……」 夏彦は俯いて泣いていた…… 命は……黙って夏彦を見ていた 人間……そんなに簡単に変わらないだろうと……想っていた 人を騙すのが得意な夏彦だから…… 今度も演技なんじゃないか…… そんな想いが抜けなかった だが今……目の前の夏彦は… 昔の面影もなかった 傲慢で暴君だった夏彦は……死んでいなくなっていた 心から懺悔して……悔いた日々を送ってるモノだけが見せる苦悩に満ちていた こんな姿見せられたら…… 何も言えなくなってしまう 「………私はまだ……皆さんの前に顔を出すべきではない 解っています…… 私のした事は……許されないのは……解っています」 夏彦がそう言うと晴香が 「夏彦……もう良いから…… あんただけ苦しみの中にいなくても良い……」 そう言い泣いた 総ては藤崎の会社の存続の為だった 想いは一つだったのに… 遣り方がまずかった 弓弦は泣きながら家族に謝った 「………夏彦を許して下さい 夏彦は、ずっと悔やんできた 許されないのは解っています でも……夏彦を……」 泣きながら……必死に夏彦を庇った 俯いて泣く夏彦の背を庇って……弓弦は謝った 晴香は弓弦の頭を撫でた 「君が夏彦を拾って生かしてくれた子なんだね」 「西条弓弦と言います…」 「幾つ」 「21……にもう直ぐなります」 「ご両親は?」 「いません……子供の時に二親とも亡くしてます 俺には夏彦が総てだから…… でも夏彦が家族の元に帰れるなら……俺は一人で静岡に帰っても良い……」 晴香は弓弦を抱き締めた 不安で一杯になってる弓弦を抱き締めて安心させてやる 「バカな子ね……夏彦と離れられないんでしょ?」 「………でも夏彦が帰れるなら……俺は……」 弓弦はそう言い涙を拭いた 「夏彦といてやってね……」 「良いの?」 弓弦の瞳から涙がポロッと流れた 「良いのよ……」 晴香が言うと弓弦は泣いた 命が弓弦の前に暖かいミルクを置いた 栄一と瑠璃子は夏彦の前に立つとニコッと笑った  栄一の手には子供が抱かれていた 栄一は夏彦に 「貴方の孫です! 近くに越して来て面倒見てくださいね」 と頼んだ 「……栄一 良いんですか?」 「貴方は俺の父さんなのは変わらない 父さんが不器用な男なんだと…今解りました」 栄一はそう言い父を許した 瑠璃子は夏彦に封筒を渡した 封を開けると……結婚招待状だった…… 藤崎夏彦様 西条弓弦様 と連名で名前が書かれていた 「………瑠璃子……」 夏彦は招待状を瑠璃子に返そうとした 栄一も瑠璃子も政略結婚させて無理強いさせて来た 藤崎興産が倒産したした時、子供らの婚姻も解除されたと聞いた 子供の人生を台無しにしたのは自分だった 瑠璃子は胸を張り美しく笑うと 「私の父さんは貴方一人! 私とバージンロードを歩いてよ! 母さんは呼ばない 私には父さんだけいれば良い ですから大阪に越して来て下さい 傍にいましょう 今まで傍にいられなかったんだから…… 傍で暮らしましょう」 「瑠璃子……」 瑠璃子は夏彦に似た顔で笑った 「父さん、花嫁の父なんだからね!」 「………許されるのですか……」 「父さんも苦しんだ…… 今の貴方を見れば……どれだけ苦しんで生きて来たのか解ります……」 そう言い瑠璃子は夏彦を抱き締めた 冬樹も「兄さん、隣の子を紹介して下さい」と声を掛けた 「西条弓弦君です 私は……大阪での就職を諦めざる得なかった 大阪では生きられない……と山梨に行きました 死のうと想ったんです 富士の樹海を、彷徨い……死ぬ勇気が無くて……死にきれませんでした でも生きる気力も無くて… 静岡まで流れて行ったんです たまたま目に付いた公園でホームレスみたいに過ごしていました このまま朽ち果てて……行き倒れで…… 無縁仏に入れられも良い…… そんな気分でした そんな時、弓弦が私を拾ってくれたのです 何も持たない私に…… 行く所がないなら、此処で住めよ……と言ってくれて…… 私を養ってくれていたのです 私は我が子と変わらぬ子に……養われて食べさせて貰って… 情けない想いで一杯でした それで働く気になったのです 後は姉さんがご存知の通り高校教師をして生計を立てて生き繋いで来ました」 夏彦の語る話は壮絶だった 家族の胸に……想うのは 死なないでくれて良かった…… と言う想いだけだった 晴香は「死なないでくれて良かった……」と呟いた 命はあんなに憎んだ……藤崎夏彦なのに…… そんな面影もなく変わってしまった夏彦に…… やはり……死なないでいてくれて良かった……と想った 夏彦なりに会社を守りたかったのだ 遣り方を間違えただけだ…… 人間は……間違えてもやり直せる…… 何度だって……やり直せるのだ やり直す人間を…… 突き落とす事なんてしない 命は総てを許していた 多分家族もそうなのだろう…… 秋人は泣いていた あんなに憎んだ兄だけど…… やはり切っても切れない血の繋がった……兄弟なのだ 秋人は「……兄さん、帰って来て下さい……」と声掛けた 「………秋人……許されますか?」 「兄さんが死なないで良かった思う もう憎む心なんて……ないよ それより弓弦君を不安がらせたらあかんやろ?」 秋人に言われて夏彦は弓弦を見た 「……どうした?弓弦?」 とても優しい瞳だった 大切に大切に……愛してる者に向ける瞳だった 弓弦は夏彦を見て泣いていた 「………夏彦……」 「泣かなくて良いですよ 君が静岡を離れたくないなら……私は静岡から離れません」 弓弦は首をふった 「夏彦……家族の傍に行けよ…」 「君も一緒ならね」 不安そうな瞳を向ける弓弦に 命は「弓弦は大学、何学部?」と問い掛けた 「…獣医師学科……俺…獣医になりたいんだ…」 命は弓弦の頭を撫でると 「なら大阪にも良い大学はあるぞ! 編入すれば大丈夫だぜ! バイトするなら修一の工務店ですれば良い」 「……工務店の仕事なら高校時代してた! 建築学部と獣医師学科とどっちに行こうか悩んだんだ…」 「おう!修一!戦力GETやな! 夏彦が大阪に来たら即働いてええで!」 「バイト先決まっちゃった……」 弓弦は呟いた 「俺は夏彦の老後の面倒見なきゃなんないからな 開業して夏彦の面倒を見るんだ」 弓弦は楽しそうに……そう言った 修一は笑って   「親父、老後は安泰だな」 と声を掛けた 「……弓弦を縛り付けるつもりはない……」 と悲しげに呟いた 秋人は夏彦の腕を掴んだ   年若い恋人を持つと……気苦労は耐えない 「兄さん!なら二人で老人ホームに行きましょう!」と訴えた 夏彦は苦笑した   「……命が許さないでしょ?」 「なら兄さんは弓弦が許さないと想うで……」 秋人はそう言い楽しそうに笑った 晴香は本題を夏彦に伝えた 「夏彦、あんた結構有名な教師なんやね この前お得意様の塾のリフォームやったんや その時偶然、あんたが取材を受けた雑誌が学長さんの机の上にあってな あれ?何で夏彦と呟いたら、学長さんが説明してくれた 学長さんは塾もやってて、個別指導の塾の専任教師をやって欲しい、仰ってたんや 給料は弾むと言ってくれてる 呼び寄せるんだから、マンションを用意して住まわせると言ってくれてる 詳しい話は椎堂真也さんに尋ねてくれれば、希望に応えてくれると想う」 「……姉さん……今の家は買ったので……処分しようにも…直ぐは無理です」 「ならそれを伝えれば?」 「解りました」 「今夜泊まりなよ」 夏彦はえ?と言う驚きの顔をした 「秋人の家じゃないわよ 修一の家に泊めて貰えば良いじゃない」 「………迷惑です……」 夏彦が言うと修一が 「弓弦と始められると困るけどな…… そうでないなら泊まってけば?」 「………人様の家で始めたりはしません……」 「なら泊まって行けよ 弓弦バイトの説明するしさ 後、仲間も紹介するよ! そこの命はもう知ってるだろ? 晴香さんの横に座ってるのが漆原当麻  後一人島田耕作と言うのがいるんだ! 弓弦は工務店でバイトってどんな事してたんだよ?」 弓弦はバイト生活を語った 弓弦は結構経験豊富で即戦力になりそうだった 「親父、飯食いに行こうぜ んで、俺んちに泊まって明日椎堂さんの所へ行けよ! 多分椎堂さん物件も転がしてるから話には乗ってくれると想うぜ!」 「ならそうします」 夏彦が言うと晴香が 「明日、椎堂さんの所へ行くなら同行するわ!」 「姉さん……面倒掛けます…」 「良いのよ!大阪に呼びたいのは家族の想いやからな!」 「大阪に戻ったら、少しずつみなさんに返して行きたいと想います……」 「返さなくて良いわよ あんたが生きていてくれれば……それて良い 幸せになれば……それで良いの 家族なんだから……何時でも顔が見れて、協力し合って生きて行けるならそれで良いの!」 夏彦は言葉もなかった その日は修一の部屋で泊めて貰った  修一の部屋に当麻や命、島田耕作が集まり、弓弦と仲良く談笑していた 弓弦は生き生きと笑っていた 夏彦はそれを何も言わず優しい瞳で見ていた 修一の部屋の隣は両親が住んでいた 夏彦は両親の部屋を尋ねた  何言わなくても……親の思いは伝わる 年老いた両親を苦しめた…… 悲しませ……心配掛けた 「父さん、母さん……ご心配掛けました」 母は夏彦にコップを渡した 父は黙ってそのコップに酒を注いだ 父親と初めて……酒を飲んだ 父は静かに飲んでいた 夏彦も静かに飲んでいた 親子だった ………こんなにも似た親子だった 母はそれを見て涙ぐんだ 静かに時間は過ぎて行った 翌日、夏彦は晴香と二人で椎堂真也の事務所に顔を出した 椎堂は「うちの塾で働いて下さるなら住む所はご用意致します 給料も今の公立の教師よりは弾みます」 と好条件を上げて来た 晴香は「夏彦はマンション買ってるらしくてね 簡単には来れないかもと行ってるんやけど…」 「解りました! 貴方の住むマンションを同等もしくは破格値で買い取ると言う形で、此方のマンションを貴方に差し上げます」 「………あの…私にはそんなに価値があるとも想いません 後で……返して下さい…と言われても困ります」 「言いませんよ 貴方の教師生活に起こした実績は評価致します 個人レベルで教育に取り組み、確実に生徒のレベルを上げる事に成功した 貴方のカリキュラムの作り方は生徒をちゃんと見ている 私は評価しております 塾を任せます そこで腕を奮ってみませんか?」 「……私も大阪に帰りたい 貴方が評価して下さる以下にはする気は無い ですが実績というのは一長一短で出るものではありません」 「解っています 相手は人間です 積み上げてこそ意味があると想っています」 「では宜しくお願いします」 話は成立して夏彦は大阪に引っ越して来る事になった 【金曜日には花を買って】 大阪に引っ越して夏彦は着実に実績を上げて来ていた どんなに成績の悪い子でも塾に来れば……最低ラインの合格圏内に入る事が出来た 夏彦は生徒の視線に向き直り   生徒一人一人に合ったカリキュラムを組む 苦手科目はどこで躓いたかを調べ、徹底的に掘り下げて勉強を教えた 基礎を叩き込む 勉強は基礎が出来てこそ蓄積される努力だと生徒に教えた 前向きな真摯な姿勢に、夏彦が任された塾は今や人気の塾になっていた 弓弦は大阪の大学に編入した とことん学びたいと大学院に上がった   学費は藤崎工務店でバイトして稼いでいた 塾は夕方からで、夏彦は忙しい弓弦に変わって家の事をした 弓弦の為に夕飯を作って塾へと向かう 弓弦は夏彦が帰るまでご飯を食べなかった 夏彦が帰って来たら一緒に食べる   夏彦の帰りを弓弦は待っていた もう不安はない 何時か夏彦が消えてしまうんじゃないかって不安はなくなった 夏彦の子供と仲良くなった 夏彦の子供の友達と仲良くなった 一緒に働き、時には遊びに行く 飲みに行く時もあった 修一は父親の…男の恋人だと言う立場の……弓弦に優しく接してくれた 遺憾はないと言うかの様に、バイトをさせて貰う 「弓弦、今夜も親父は遅いんだろ? どうだ?飯食いに行かねぇか?」 「夏彦が作ってくれてるんだ 今夜は金曜日だから……夏彦が花を買って来てくれるからな家にいたんだ 」 弓弦が言うと夏彦は不思議な顔した 「親父が花を買うのか?」 弓弦は頷いた 「どんな顔して買うのかね…」 修一は笑った 「……俺が拾った日が金曜日だったから…… 夏彦は忘れない様に金曜日には花を買って来てくれるんだ」 「なら帰らないとな!」 夏彦は手をふって見送ってくれた 弓弦は家まで走って帰ってゆく 夏彦…… 夏彦…… 想いは夏彦の所へ飛んでゆく 夏彦が帰る前に家に辿り着く そして夏彦を待つ 今週も……照れて花を買って帰って来る夏彦が帰って来る 『弓弦……愛してる だからお前が拾ってくれた金曜日にはお前に捧げる花を買って帰る…』 夏彦は大阪に越して来て、そう言ってくれた 大阪に弓弦が慣れないから… そう言ってくれたのか? 記念日になりつつあった だから金曜日は特別 絶対に… 夏彦より早く帰るんだ 弓弦は急ぐ 家に辿り着いて暫くすると ピ~ンポンと音が鳴り響く 弓弦は駆けて行き玄関を開ける すると花を手にした夏彦が立っていた 「お帰り夏彦」 弓弦は夏彦に抱き着いた 「ただいま弓弦」 夏彦は花束ごと弓弦を抱き締めた 永遠の一瞬 愛してる夏彦 夏彦は微笑み弓弦に口吻た この命が……なくなる瞬間まで… 君と出逢った記念日には 花を買って帰るから…… _________END 【あとがき】 悪人で終わらせたくなった 人は変われる先に逝ける そう想いたかった 祈りを込めて 願いを込めて 藤崎夏彦と言うキャラを書きました 読んで下さって本当にありがとう御座います 感謝の想いを込めて 本当にありがとう 読まれる作品を書けて 月夜野は本当に幸せです 2014.9.24 月夜野 羽咲 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー これは今現在の二人のお話です 【君に花を買って】 西条弓弦は大学院を卒業して小さな動物病院に勤めていた 大学院で師事していた教授、八雲弘毅の助手として病院を切り盛りしていた 八雲と謂う男は本当に‥‥患蓄以外の事はどうでも良い、私生活には向いてない男だった だから仕方なく八雲の尻を蹴り飛ばして、働かせていた 西条弓弦には男の恋人がいるのも承知で、八雲は弓弦を雇っていた かくなる八雲はバイで男も女も大好きな男だった でも一番好きなのは動物 動物は裏切らないから大好きだと謂う この前、妖怪の健康診断をしてからは、妖怪って可愛いじゃん!と妖怪に夢中になっていた 飛鳥井建設の真贋は引っ越しの約束を守ってくれ、到底手のでないであろう物件をポンッとくれた 家賃は取らない だが妖怪の健康診断を定期的に行ってくれ それが条件だとしても‥‥‥この破格の物件は割りが合わないと想う弓弦だった 八雲は「返せと謂っても返さねぇからな!」と謂ってせっせと引っ越しの準備をしていた スタッフも増やす予定だった だが弓弦は給料が払えるのか?と想う 動物病院が起動に乗るまでは経営コンサルタントが着いてくれると謂う 不動陵と謂う男とも先日顔見せしたばかりだった 弓弦は「先生、本当に大丈夫なんですか?」と不安を口にした 「大丈夫とは?」 八雲は笑って問い質した 「お前、ちゃんと働くのか?って謂ってるんだよ! 男だ女だと尻を追っ掛ける暇なんてねぇんだぞ!」 「相手が‥‥飛鳥井家真贋だから‥‥あの瞳からは逃げれねぇからな‥‥仕事はするさ」 「嫌なら断れよ! あんたは嫌な仕事はしない主義じゃねぇのかよ?」 「嫌じゃないから断らない! 譲が、あ、お前も弓弦か‥‥久遠の方の譲な! アイツが嫌と謂う程に飛鳥井家真贋の怖さは教えてくれたさ! でも俺は妖怪の健康診断をしたいからな、全面的に受け入れる事にしたんだよ! 彼の齎す経済効果にはあんまし魅力はないが、未知の生命体を知るチャンスは手放す気はない 魔界の動物の診断もさせてくれると謂う この前見た天馬とか本当に未知な動物が見られるのなら‥‥‥俺はやりたいと想うんだよ お前は愛する恋人がいるし、怖いなら‥‥来なくて良い」 「俺が見張ってなきゃ直ぐにサボる奴を野放しにすると想いましたか? さぁ、さっさと荷造りしやがれ! 明日は引っ越しだぞ!」 「解ってるよ弓弦 本当に『ゆずる』と謂う名前は容赦のない奴が多いな‥‥」 八雲はボヤいた そんな八雲は捨てておいて、弓弦は恋人にラインを送って満悦だった 「あ、そうだ、今日は俺早く上がるわ」 「また建築屋の助っ人?」 「今回は便利屋の方の依頼だ クーラーの取り付けが追い付かないらしくてな助っ人に入る予定なんだ その代わりワン達の健康診断を一手に依頼されたからな」 「助かるよ良く働いてくれる助手で‥‥」 「本当なら俺は自分の動物病院を持つつもりだったのに‥‥」 八雲と大学院で出逢って師事して以来‥‥ついつい世話を焼いて大変な事になっていた 「サボるなよ!先生!」 弓弦は直ぐにサボる恩師に釘を刺した 「解ってるよ」 軽い言葉に明日は早く来て荷造りだなと想う 弓弦はテキパキ荷造りして晴香の所へと向かった 夏彦の息子の修一と共にクーラーの取り付けをする 修一は一段落すると「最近どうよ?親父とは?」と弓弦に問い掛けた 「変わらないよ 夏彦は忙しそうだし‥‥でもね最近は栄一さんの所の長男が居候状態なんだよ 夏彦も嬉しそうに勉強を教えてるよ」 「明(あきら)だっけ?」 明と謂うのは夏彦の息子、栄一が政略結婚をしていた時に出来た子供だった 藤崎が倒産すると婚姻は解消され、栄一は子供と二人家を追い出され出て来たのだった 「そう、明」 「やっぱ再婚相手と上手くいってないのか?」 栄一は最近再婚して、子供も出来ていた 栄一の再婚相手は明を我が子と隔たりなく育てて逝くと謂ったが、明が遠慮して夏彦の所に来ている様だった 「そう言うのとは違うみたいだよ やっと父親が幸せになるんだから、新婚気分を味合わせてやる為だって本人は謂ってるよ 夏彦は距離を計りかねているんだと謂ってた だから明の好きにさせてるって‥‥」 「そうか、明も複雑だろうな 時々は弓弦も新婚気分でイチャイチャしたいだろうから、明を見てやっても良いぞ! 曾孫だからな、ばあちゃんやじぃちゃんも喜ぶと想うしな」 「瑠璃子さんちの子供も最近は夏彦の所に来ててね 夏彦は孫に囲まれて幸せそうだから良いよ」 「瑠璃姉んちは夏希と夏帆どっちよ?」 「両方だよ、あの子達も夏彦が大好きだからな 勉強も教えてもらって成績も良いらしくて、もう同居してるみたいなモノだよ」 「親父は人気者だな 塾も盛況で三年先まで予約が入ってるらしいな」 「みたいだね」 最近の夏彦は生徒に合ったカリキュラムを考え、それを塾の講師に教えて幾つかの塾を掛け持ちとなる程に、夏彦は手腕を発揮していた 「修一もたまには夏彦に逢ってやりなよ!」 「別に避けてる訳じゃないんやで! 今は繁盛期だから暇がないだけだ 一段落したらまたじぃちゃん達と逢いに逝くさ まぁその前にお盆だから親戚一同が集まるだろうが!」 夏彦は年老いた両親の為に藤崎の家を取り戻し、両親をその家に住まわせていた 修一も祖父母と同居してるから、その家に住んでいた 夏彦は最近、塾の入ったビルごと椎堂さんから譲り受けられ、そのビルの最上階に住んでいた 夏彦が皆から受け入れられた成果だと弓弦は物凄く嬉しかった 仕事を終えると弓弦は我が家へと向かった 途中、花屋で綺麗な花を見つけて購入した 夏彦は毎週金曜日に花を買ってきてくれていたが、弓弦が大学院を卒業した年に止める様に謂った 弓弦も夏彦へ花を買いたかったからだ どちらも気が向いたら買えば良い だから弓弦は花屋で綺麗な花を見つけて、購入したのだった 夏彦の為に花を買う 夏彦と自分の生活を彩る花を買う 二人の部屋は四季折々の花で彩られ愛に満ちた空間を作り出していた そこへ栄一の子の明や瑠璃子の子の夏希と夏帆も加わり楽しい家族みたいな日々を過ごしていた 「ただいまー」 弓弦は家に入るとキッチンへ向かった キッチンには夏彦が料理を作っていた 「おかえり弓弦」 「はい、夏彦に」 弓弦は夏彦に花を手渡した 夏彦はその花を受け取り幸せそうに笑った 弓弦は夏彦に抱き着き甘えていると、トントンと背中を突っつかれた 振り向くとそこには明が立っていた 「明、俺と夏彦の時間を邪魔しないの!」 「別に邪魔はせんけど、腹が減ってるねん 食べてからにせぇへんか?」 明は生意気な口を利くん 弓弦は明を引き寄せて抱き着いて 「お帰り弓弦君は?」と生意気な口を摘まんだ 「痛いって!弓弦! お帰り弓弦!離せよ」 「おー!生意気な!」 二人は寄ると触ると喧嘩を始めていた 夏彦はそんな二人を何時も優しい瞳で見ていた 明は夕飯を食べると一番奥の部屋へと引っ込んだ 彼は家に帰らず夏彦の家にほぼ居候状態だった 別に親との関係が悪化してるとか‥‥ではないが、親と新しく生まれた兄弟との距離の取り方を躊躇しているのだろう‥‥と夏彦は想っていた だから明の好きにさせていた 弓弦も明一人増えたとしても夏彦さえいてくれれば、どんな事だって平気だった だが夏彦も弓弦も男同士なのだ 明がどう思っているか‥‥は気になる お風呂に入ってベッドに入ると弓弦は夏彦に 「明って俺達の事‥‥どう想っているんやろ?」 「知ってますよ、最初に総て話しましたからね」 「え?話したの?」 「ええ、私達は性別こそ同じですが、夫婦同然に過ごしているのです、と伝えました」 「‥‥‥なら総て知ってるって事か‥‥」 「夏希と夏帆も知ってますよ 弓弦好きって謂ったから、弓弦は私のです!と宣戦布告しておきましたからね!」 そう言い夏彦は笑った 弓弦は夏彦に抱き着き胸に顔を埋めた 「夏彦、長生きしてくれよ!」 「ええ、一分一秒でも長生きしてみせますもも! だけど、もし私が死んだら君は誰かを愛しなさい 誰よりも幸せでいて下さい それだけが私の望みです‥‥」 「嫌だ!そんな事を謂うな! 人生を全うした後、私を追ってらっしゃい!位謂えよ! 俺は夏彦だけで良い! 夏彦が死んでも夏彦を想って生きていく!」 「弓弦‥‥」 「この世に確かなモノなんてないなも知れないけど‥‥‥ 夏彦を愛した想いだけは忘れたくねぇんだよ‥‥ その想いだけは俺の中で生きて逝くんだ だから生まれ変わっても俺と‥‥‥いてくれよ!」 夏彦は弓弦を抱き締めた 「なら私以外を愛したら恨んで出てやります!と謂います」 「そうそう、死んでも俺を見張っててくれよ! 俺が拾ったんだから夏彦は俺のモノなんだからな!」 「そうです、私は君のモノです でもね、こんなに幸せで良いのかって‥‥時々想います」 両親や兄弟に許され 我が子に許され‥‥‥ 傍に住む様になってからは、前とは比べ物にならない程に‥‥‥ 家族との時間を過ごした 孫が逢いに来てくれる 我が子が逢いに来てくれる 兄弟や両親が逢いに来てくれる 昔の自分では考えられない現状に、夏彦は夢の中にいる様な気分でいた 「目が醒めたら‥‥‥一人きりだったら‥‥‥ そう考えるたびに君の温もりに救われました 自分は一人じゃないんだって‥‥君の温もりが教えくれた」 「夏彦‥‥」 「私を拾ってくれてありがとう だから今があるんです そんな君を私は幸せに出来てますか?」 「出来てるよ! 俺は‥‥‥死にそうな位幸せだならな!」 弓弦は夏彦に抱き着いた 「ずっといてください」 「ずっと傍にいるから‥‥」 互いがいるから掴めた幸せだった 今日も明日も明後日も 毎日を生きて逝く 互いの温もりがあるならば歩んで逝ける 「愛してます弓弦」 「愛してるよ夏彦」 二人の想いは絶対に離れない絆となり結び付いた 君に花を買って帰るよ 君と過ごす部屋を彩る花を買って帰るよ 君がいるならば、この部屋も色付き華やかなに輝くだろう 明日も明後日も明明後日も‥‥ 君の為に花を買うよ

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