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第17話

史は肌に感じる柾の身体の熱を心地よく感じた。 今まで、何人もの男、そして女も、身体を重ねてきた。望んで関係を持った相手、そうではない相手。そのどちらにも身体の相性がある。 相手との間に愛情がなければ、苦痛を感じることも少なくない。が、残念ながらその逆も存在する。 特に、ゲイは異性愛者と違い、気持ちも身体も繋がれる伴侶を見つけることそのものが困難だ。 そうなると、後腐れ無く性欲を解消するための相手を見つけることは悪いことではなく、よくあること、としてゲイの間ではまかり通っていた。 若いときから、本人の意志とは関係なくその機会が多かった史は、柾が優しく大切に自分を扱うことに戸惑いが隠せなかった。 どちらも男であれば、多少乱暴に扱うことはそう問題にならない。 強制的な関係であれば、その度合いは強くなり、傷として心と身体に刻まれる。 女性を抱くかのように優しい柾の腕は、史の身体に刻まれたそんな記憶ごと取り去ってくれた。 柾の手が史の最も敏感なところを探り当て、史の顔を身ながらそっと指を動かした。 「あっ……っ」 柾と史が初めて会ったのは、野瀬コーポレーション人事部。本部では無かったものの、きわめて本部に近い支部だった。 野瀬燿子との実質上の離婚が進み、周りには気を遣われたが、史にとってはやっと自由になれた場所だった。 そこに、柾が配属されてきた。 見るからに人の良さそうな、ともすれば優柔不断に見えなくもない優男、という最初の印象は、数日で払拭された。 スローペースだが堅実な仕事ぶり。他人の仕事まで頼まれると断れないのが玉にキズだが、それすらも彼の人の良さを際立たせていた。 最初は、感じのいい部下。 それだけだった。 「史さん……声、抑えないで…」 「……っんっ……あぁ…っ」 身体が勝手に揺れて、史は柾の背中にしがみつく。堪えたくても、吐息に声が混じる。柾に抱かれると、史はどうしても声が高くうわずる。 柾は史の膝を左右に割った。 腿の内側の柔らかい肌に口づけられ、史の腰がびくんと跳ねる。柾の熱い舌と唇は、次第に史の中心に近づく。 唇にキスするように、柾は優しく史のそこに口づけた。吐息ではなく、声が漏れる。 「は…ぁっ……ん…」 いつからだっただろう。 柾を目で追うようになったのは。 毎日明るく挨拶をしてきた。誰かがミスをすると、それとなくサポートに回る。そのくせ自分がミスをすると、必死に自分で何とかしようと奮闘する。要領が悪くて、誰にでも優しい男。 史は彼を、密かに好意的に思っていた。 それが、ある日を境に、熱視線を感じるようになった。 気のせいだと思った。 今まで会った男たちのような舌なめずりするような視線ではない。 もっと澄んだ、こちらが恥ずかしくなるほどのひたむきな瞳。 そんなはずはないと、何度も打ち消した。 史が感じたその視線は、まるで初恋の少年のものだった。 柾の温かい唇に咥えこまれ、史は耐えられず身震いした。 「まさ…き…っ…あぅっ…」 史の悦いところを愛おしそうに舐め上げる。そして同時に後孔に指を滑らせる。 「んん…っあっ…」 柾のペースに巻き込まれると、何も考えることが出来なくなる。初めてキスされたときから、それは同じだった。 優しい手で、巧みに史の隠れた部分を引き出していく。自分が知らない自分を見せつけられる。 「史さん……ごめんなさい、俺、もう…我慢できない…」 柾は切羽詰まった声で言うと、史の両足を捕らえた。 先端が触れた、と思った次の瞬間、史の中に柾がぬぷりと挿入って来る。 熱い柾のそれにまとわりつく壁を押しのけられ、史は天井を仰いだ。シーツを掴んだ両手に力が入る。 「史…さん…っ……少し、緩めて…っ」 柾は荒い息をしながら史を見下ろす。史が必死に首を横に振ると、柾の手が史の中心に伸びる。 「う…んんっ…あっ……」 前を弄られながら突き上げられ、史の身体を電流が走る。 大きな波に何度も飲み込まれそうになり、また声がうわずってくる。湿った肌と肌がぶつかり合う感触と卑猥な音に、史の身体は翻弄された。 柾がちかしさん、と名前を呼ぶ度に繋がったそこは締まり、柾を締め付ける。 柾は史の片足を肩に担ぎ上げた。 その体制に、史がはっとして柾を見上げる。 「…やっ…だ…柾っ…っ」 「…嫌じゃないでしょ?これ…好きですよね」 「っ…馬鹿…っ…あっ」 史はひときわ切ない声を上げた。 柾の動きが激しくなり、そのリズムにベッドが軋む。二人の呼吸のリズムをいつしか重なり合い、そこに史の喘ぐ声が混じる。 「……っだめ…っんぁっ……そこ…イくから…んぁあっ…」 「…ちかしさんっ……すきっ…です…っ」 史は必死に腕を伸ばして柾の顔を引き寄せた。そして小声で呟くと、ぽとりとベッドの上に落ちた。 柾は一瞬動きを止め、史の斜め後ろからその横顔を見つめた。 史の耳が赤い。おそらく顔まで赤いのだろうと柾には分かる。 繋がったまま、柾は史の耳元に顔を近づけた。 「ちかし…」 柾のかすれた声を聞いて、史の全身が戦慄いた。 「あの……身体大丈夫ですか」 「……うん」 「なんか…ごめんなさい、止められなくなっちゃって…」 「なんかって……いつもだし」 「……あの」 「ん?」 「さっきの……あれは…あの…」 「………」 「勢いで言っちゃったわけでは、ないですよね?」 「……ずっと気になってた。家でも…仕事の延長みたいに感じるから…」 「俺もです!ずっと気になってて…じゃあ、でも、あの、いいんですよね?」 「…会社で…間違って呼ぶなよ」 「大丈夫です!」 「……本当かな」 「た…多分……」 「本当は敬語もいらないけど、そう簡単に切り替えられないだろ?」 「それは……時間がかかるかも…」 「じゃあ、それは少しずつ」 「はい……」 「……風呂、入ってくる」 「あ、史さん、俺も」 「…柾?」 「あ…っ」 「はい、やり直し」 「………」 「照れてないで、ほら、練習」 「うぅ…」 「じゃあ一人で風呂入る♪」 「待って待って!わかりました!」 「なんでさっきは平気で、今は恥ずかしいんだ?」 「それはほら、やっぱり、状況が違うと言いますか…」 「早くしないと先に入るぞ~」 「やだ!一緒に入りたい……ちかしと」 「……合格」 二人の笑い声と共に、バスルームのドアが閉まった。

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