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第6話 恋

学校を登校すると決めた朝、久我山は朝食を作り 類に食べさせていた 食事を終えると支度して鏡で確認 類は…久々に…制服に袖を通した 「類、行くぞ」 「うん。ねっ…変じゃない?」 「変じゃねぇって!」 久我山に太鼓判を押してもらい、類は深呼吸した そして部屋の戸締まりを確認して、久我山は類と、玄関に行き靴を履いた そして玄関のドアを閉めると、電子ロックがかかり、施錠された エレベーターに乗り込み一階まで下がると、城崎がエントランスにいた 「よっ、おはよう」 城崎が言うと、久我山が手をあげて応えた 類は「おは、よう…ございます…」と頭を下げた 久我山は、手を繋ぎ歩いて行く 隠す気はゼロだった 学校に行き3年1組のクラスに入ると… 類の机には花が置いてあり『死亡』とか『御愁傷様』と書いてあった 久我山は窓を開けると、窓の外に花瓶を投げ捨てた そして、その机を…窓から投げ捨てた 「書いたのは誰だ!」 久我山が睨むと…クラスの人間は脅え…黙った 久我山が「クラス委員!」と叫ぶと クラス 委員は慌てて出てきた 「類の机がない!持って来い!」 命令した! 「え?類?誰?」 クラス委員は、誰の事が解らなかった 「江口類!あの落書きの机の持ち主だ! 今後、類の机に落書きする奴を見付けたら…タダで済ませる気はねぇから!覚えとけ!」 久我山は類の机が来るまで、自分の椅子に座り類を膝に乗せた 城崎は大爆笑した 久我山は隣の奴を、他の席へ移らせた HRが始まっても、久我山は類を膝から下ろさなかった 「久我山…」 教師が、声をかけると久我山は睨んだ 「何だよ!用なら早く言え!」 「窓から…花瓶と机と椅子を捨てたろ?」 久我山は、類を椅子に座らせると立ち上がり 、教師に詰め寄った 「お前は、あんな机と椅子を教室に置いておいても気にならなかったのか? ならば、後で回収して親父に見せようか? 虐めを黙認していた証拠を拾って来いと? 良いぜ!とことん俺を敵に回すならやってみろよ!」 教師は…言葉を失った 久我山は一歩も引く気はなかった クラスの久我山に賛同する人間が…久我山の側に立つと…教師はクラスから逃げていった 「はん!バカめが!」 クラス委員が新品の机と椅子を久我山の横に置いた 久我山は、その机に類を座らせた クラスの人間は…江口類の素顔は知らなかった 何時も俯いて…顔を上げなかったから、顔を知る者など皆無だった 死神と呼ばれ虐められていた奴を何故久我山が庇うのか…解らなか った 久我山の制服の裾を掴み…泣きそうな顔をして…類は久我山を見ていた 「類…大丈夫だ 誰もお前に手を出させねぇ! 」 久我山が言うと城崎は 「久我山の溺愛の江口類を、わざわざ触る奴はいねぇって!」 城崎はわざと、類のフルネームを言った クラスの皆は…えぇぇぇぇぇぇっ!!!と悲鳴をあげた 類は驚いて…久我山に手を伸ばした 久我山は、類を膝に乗せ抱き締めてやった 城崎は…クスッと笑いを漏らした 一限目が始まり、教科担任が入って来た 立ち上がり礼をして席に着く頃には…皆は切り替えていた 教科担任は、類の顔を見て「転校生?」と聞いた クラスの…誰もが黙って何も言わなかった… 久我山は、教科担任に 「江口類だ! 転校生なんて聞いてねぇならいるわけねぇじゃん! いちいち聞かれるのは面倒だ!」 と立ち上がり… 教師の持ってる座席表と机の上にある座席表にマジ ックで久我山の横の席を 「江口類」と書いた 久我山は、席に戻ると「授業を始めろ!」と、命令した 教師は授業を始めた この日…授業を終わるまで…久我山は不機嫌だった… 授業が終わると、久我山は当然の様に…類の手取りクラスを後にした 城崎は「余裕ないじゃん…慶一」と揶揄した 久我山は不貞腐れて 「放っておいてくれ!」 と 言い捨てた 城崎は「放っておかなかったか?」と笑った 「まぁ、こんな騒ぎも…あと少しだしな」 「そうそう! 卒業だからな その前に大学入試があるし…」 「……それがあるか… まぁ俺は私大で、バイトに精出して人生経験を蓄えて、何か仕事すれば良いか」 久我山はそう呟いた 城崎は「類はどこの大学に決めてるんだよ?」 と、問い掛けた 「僕は…慶一と同じか…家に近い場所で良いや 」 城崎は笑って「最高だな!お前」と肩を叩いた 「琢磨は何処か決めてるのかよ?」 「俺?俺はあくせくしたくねぇからな お前等と一緒で良いや」 学校の外に出ると、雪が降りそうな程寒く…類は身震いをした 「慶一、寒い…」 類が呟くと久我山は笑った 「琢磨、類は北海道まで俺から逃げた癖にさ 寒がりと来てる……笑えねぇ?」 「そう言ってやるな… 沖縄じゃない所が…類らしいじゃん」 「そうだな…」 久我山は笑って…類と同じ家に帰った 驚きも喧騒も卒業を前にして日常を取り戻して行った 卒業までの数ヶ月 類はクラスメート達とも普通に話せる様になっていた クラス全員が江口類を認めたと謂っても過言ではなかった 類は初めて学園生活が楽しいと感じた 厳しい受験の合間を縫ってクラスでネズミの国に卒業旅行へ行く計画が持ち上がった 高校生活最後の想い出を皆で作ろうと話し合いがされ学校側も認めて、受験の気晴らしになれば‥‥と想い開催される事となった 類さクラスの皆と仲良く話したり、乗り物に乗ったりした 久我山は意地悪で…ネズミの国に一番の怖い乗り物に一緒に乗ろう! と、俄然張り切って乗り込み 類は…終始叫んでいた 乗り物から乗りる頃には放心状態となった 城崎は爆笑して クラスメートは久我山に濡れタオルや飲み物を渡した それを受け取り久我山は類の介抱をした 久我山の膝の上に頭を乗せて 「何か…信じられない…」 と溢した クラスメートが類に声をかける 普通に… 当たり前に接してくれる 何だか信じられない気持ちで一杯だった… 「何が信じられねぇんだ?」 久我山は類の髪を撫でながら問い掛けた 「クラスの人と…話せたり… 当たり前の様に過ごせてる…」 「想い出を作ろうな…類 お前が高校生活を送った確かな想い出を作ろうな!」 類がいた…証 類が過ごした…高校生活最後を彩る…日々 「慶一 僕…こんな夢みたいな日々が過ごせるなんて思っていなかった…」 「夢じゃねぇよ! 俺とお前が刻んでる日々だ これからも続く日々だ」 「慶一 愛してる…」 うるうるの瞳で… 類は久我山を見た 本当に…無意識にやるからタチが悪い 「クラス写真はど真ん中を陣取ろうぜ!」 うん…うん…と類は頷いた 高校生活ラストの、日々は 類が味わった事のない日々だった 久我山がいて、城崎がいて…類がいた クラスメートがいて… クラスの一員として過ごせた日々 類は久我山を見つめていただけの日々を思う グランドを駆け回る久我山を見ていた 知り合いになりたい…とかじゃなく 生命力に満ち溢れた久我山を、唯、見詰めていたかった その久我山の気まぐれから始まった日々 逃げて… 追い掛けて来てくれて 戻った日々は 類の宝物になった 学校生活にも…馴れて、自由登校になった頃 私立の大学に三人は合格した 久我山は、バイトに精を出しまた逞しくなった 類は、少しずつ食べるようになり…ほんの少しだけ大きくなった 後……卒業を待つだけになった頃… 久我山の両親に卒業祝いをするから、と家に招かれた 久我山の両親は、何かにつけて類を家に呼んでくれた 久我山の双子の弟は…… 何と…私立大学に行くのを決めた… しかも…久我山と類と同じ大学に… 「何で聡史が、同じ大学なんだよ! 東大はどうしたよ!」 「俺らしく生きたくてさ 何で双子なのにさ、お前は新婚してて俺は地獄の受験なのさ! 俺も類みたいな子を探して、大学は自由に過ごしたくなった」 「類はやらねぇからな!」 「取らねぇよ!俺だけの子を探すんだ! 可愛い女の子が良いな♪ 俺は慶一と違って男は経験ないしな♪」 「あぁ、頑張れ!」 家族でわいわい騒いで…ってのを類は初めて味わった 類の後見人だった弁護士は、司法の場で裁かれ 弁護士資格を剥奪された 弁護士の弟は総てを兄の所為にして逃れようとしたが、証拠があり逃げられない現実に総てを認めて素直に供述していると聞いた 総ては終わった事だと‥‥久我山は事件の詳細は類には伝えなかった 久我山の両親も‥‥‥法を司る番人が境界線を越えてしまった事で、更なる覚悟を決めていた 人の人生を左右する人間が清廉潔白でなくてどうする‥‥と悩み苦しみ、初心に戻って仕事をすると決めた 何かが吹っ切れたのか慶一の母親は前よりもパワフルになった 明日は卒業と言う日、類は中々眠れなかった 寝ている…久我山の頬を撫でて… 類はキスした 久我山慶一と言う男を、ずっと見ていた 自由で、男らしくて人気があって… 長い手足を…使ってグランドや体育館で…サッカーやバスケをやる姿を見るのが…好きだった 憧れていた 何もない自分と違って… この男は…総てを兼ね備えていたから… だから、気紛れで抱いてくれて… 嬉しかった… でも……屋上で…遊びだと…聞かされ ショックで…別れを切り出される前に…逃げた 恋…だった これが…最初で… 最後の… 恋だった… 好きで…好きで… でも…想いを伝えられる程… 人と…接してなくて… 言葉が解らなかった… だから……探しに来てくれなかったから… まだ……あの寒い…景色を見ていた 連れ帰ってくれなければ… あの寒い…身も凍る様な土地で… 総てを凍り付かせて…… あの土地で…まだ…いた 類は、寝ている久我山にキスした 「愛してる…慶一」 すると、久我山の力強い腕が類を抱き締めた 「誘ってる?類…」 「ちっ…違うよ…」 「眠れないのか?」 「うん。明日…もう今日か… 卒業式だから… 色々…思い出してた…」 「何を?」 「慶一が…僕の初恋だよ 僕は…あまり人の感情がなかった… でも慶一に惹かれて見ているだけで良かったんだ‥‥」 「俺の何処が好き? 何処を見て、好きになった?」 「慶一のオーラ 存在感 そして顔… スポーツ万能で……ずっと見ていた ずっと見ていたかった… 僕にとって…初めて …だった 初めての…恋だった」 「そんな…事を言われたら、大人しく寝かせる事は出来なくなるぜ」 「慶一が僕の事を嫌ってるのは知ってたよ」 「類…最初は…優等生のお前を傷付けたかった…だけだった」 「う…ん。知ってるよ 気紛れで抱いたんだって…思っていた 気紛れでも、僕は嬉しかったんだ 慶一に抱かれて…嬉しかった」 「……類…」 「何時…終わりだと言われても… 僕は…良いよって言うつもりだった… でも…でも…実際は聞きたくなくて…逃げたんだ どうせ…夢だったんなら…夢のまま… 君を想い続けて…生きていきたい…って…諦めて…逃げたんだ… だから、信じられないんだ… 慶一が僕を…迎えに来てくれて… こんな風に…過ごせるなんて…想いもしなかった」 「いつの間にか…お前を愛していた… 認めたくなくて…お前に冷たく当たった… 抱けば…抱くほど…想いは募って…次なんて見付ける…気もなかった… でも、俺は素直じゃないからな… 気付いた時にお前を無くした もう …無くしたくないから…お前を掴んで離す気はないんだ! 離したくない!お前だけを愛してる 類しか、愛せねぇ これからは…一緒に生きていこう」 類は、頷いた 何度も…頷き…押し倒された 「け…慶一…」 「卒業式だから、今夜は寝かせてやろうと思ったのにな…無理だ!」 久我山は、類の素肌に指を這わせた… そして、自分の体の下に敷き…愛撫を散らせた… 「簡単には…終われないぜ」 久我山の言葉に…類は…背中を抱き締めた 「慶一だけを愛してる」 言われれば…後は波に飲まれて…止まらない 久我山の情熱に押し流され…類は熱に魘された様に愛してると告げた 夜が明けるまで…行為は続き… 類は久我山の愛を体で受け止めた 卒業式 当日 久我山は、卒業生代表として答辞を読み上げた 「私達、自分達はこの学舎を巣だって行きます 」 久我山は、そこまで読み上げて…原文から目を離した 「私達3年はこの先、大学生として進学する者 も、社会人として生きていく者もいます この先困難な事も、辛い事も苦しい事もある筈です そんな時は思い出して下さい 自分達が一人の人間を虐めて馬鹿にして追い込んだ事を! その時の人間はもっと辛かった筈だ 人の痛みを知れ! 人の痛みは…自分の痛みだ ! 優しい人間になれ! 優しさは自分に余裕がないと…出ては来ない。 虐めのない社会なんてない! だけど、俺達は人の痛みの解る人間になろうな! 自分の生きていく事に誇りを持とうぜ ! 卒業生おめでとう! 在校生、勇気を持て! 今日はスタートラインに立ったに過ぎない! 頑張ろうぜ!以上!」 久我山は、校長に頭を下げて 席へと戻って行った 会場は…割れんばかりの拍手が贈られた そしてこの日 久我山と類は…高校を卒業した 類は…卒業証書を持って… 校門の前で…振り返った この日を迎えられるとは… 想ってもいなかった… この学校にも… 世間にも…類はなんの未練もなかった だけど今は… この学校で過ごした日々が… 懐かしく輝いていた 久我山がいてくれた日々 クラスの皆で…笑って過ごした 信じられない日々が詰まっていた 久我山が与えてくれた日々だ 「類、二次会に行くぞ!どうした? まだ泣いてるのか?」 「だっ…だって、本当に嬉しくて…」 「泣くな…俺達はずっと一緒だ この命の火が消える日まで共にいると約束したろ?」 「うん」 「行くぞ」 久我山が、手を差し出すと 類はその手を握った キツく…キツく…久我山の手を握った 最初で…最後の… 恋だった… 握り締めた手を… 類は握り返した この手を離したくない ずっと… ずっと… この恋が 最初で最後の恋だから…          END 【あとがき】 読んで下さった皆様に 感謝の想いを込めて ありがとうと言いたいです 本当にありがとうございました この作品は3年前に書きました ちょっと大人のケータイ小説 官能小説サイト iのべる とお引っ越しを経て、このサイトで公開しました 思い入れ深い作品なので、読んで戴けて本当に感無量です 本当に読んで下さってありがとうございます 2015.4.26

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