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2話 鬱屈(前編)
その日はずっと泉原春樹を追いかけ回した。
休み時間の時も、お昼休みの時も。
けれど彼は嫌そうな顔をするだけで、俺には何も言ってくれない。
「は〜るき!一緒に帰ろ?」
「…。」
終礼が終わって直ぐに春樹の元へ行き、話しかけるもまた無視をされる。そして嫌そうな顔をされた。
けれど金魚のフンのように、俺は下駄箱までついて行くと、春樹は溜息を一つついた。
「とりあえず、俺が夜に街で遊んでることは誰にも言わないでください。」
「やっと話してくれたと思ったらそんなことか〜!別に俺は誰にも言わないよ。」
「なんで僕に構うんですか?やっぱりお礼をしてほしいんですか?」
「いーや。なんとなーくだよ。」
「なんですかそれ。意味がわからない。」
春樹のその言葉には同意見だった。
意味がわからない。
自分もどうしてこんなにも春樹のことが気になるんだろう。
「…春樹のその白い肌とか、綺麗な黒い髪が忘れられないのかも。」
「は?そういうのは女性にいうべきでは?」
「…言えてるな。」
本当に自分が何を言ってるのか分からない。
すると、「快晴〜!」と俺の名を大声で呼びながら後ろから抱きつかれた。
「美羽か…。」
「美羽を置いて帰ろうとしてたでしょ?本当、酷いんですけど!美羽は快晴の彼女なんだよ?」
「そんなことないって。それより離れてよ。」
美羽は渋々離れて俺の腕にしがみつく。
顔は小さくて可愛いし胸も大きい。はたから見たら、文句無しの彼女だろう。
「あなた、彼女いたんですね。ではお幸せに。僕は帰ります。」
「え、春樹ちょっと待てよ!」
春樹を追いかけたいのに、美羽が腕にしがみついているからそれはできなかった。
美羽は春樹を、じーっと見つめる。
「今の子って、泉原春樹でしょ?」
「え、知ってんの?」
「快晴は知らないの!?1年の時から成績は学年トップだし、顔立ちは綺麗で地味に女子からの人気高いんだよ?勿論、美羽は快晴が1番だけどね!」
「ふーん。」
「そんなことより、これから美羽と遊びに行こうよ!お願いー!」
美羽は柔らかい胸を俺の腕に押し付ける。
つまりは、そういうことがしたいのだろう。
「悪いけど、今日は俺、そういう気分じゃないんだよ。じゃあ俺は帰るから。」
「えー!」
美羽の腕を優しくほどき、俺は早足で学校を出た。
学校から徒歩10分にあるボロボロのアパートが俺の家。外見からは人が本当に住んでいるのかすら怪しいくらい、薄暗い。
つまりは貧乏なのだ。
「…ただいまー」
返事があるわけないのに、そう言って家に入った。どこ見てもゴミ、ゴミ、ゴミ。
10畳しかないこの部屋の真ん中に、部屋の様子とは似つかない綺麗なちゃぶ台がある。
電気も付けずに、バックをどこかに投げて、ちゃぶ台のその上に置いてあるものを見た。
そこには『夜ご飯です』とだけ汚く書かれた目もと千円札。
「まじクソだわー」
そう呟いて、俺はその千円札を握りつぶした。
けれどそれを持って、俺は家を出た。
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