6 / 16

第1話・運命の出会い。(5)

「あ、あれは、皇帝ペンギンですか?」  篤の、視線のそこに、等身大はあるだろう、ペンギンの大きな縫いぐるみがあった。  でっぷりとした体つきに、つぶらな瞳。  本来、皇帝ペンギンとはすらりとしているものだ。あれは、どう見ても皇帝ペンギンぽくはない。  それでも皇帝ペンギンかもしれないと思ったのは、くちばしの下にある喉の部分が黄色をしていて、後ろに繋がっていたからだ。 「ほう、お客様はお目が高いねぇ。あれは、ある王家から譲り受けた品なのじゃよ」  篤の問いに、老婆は目を細め、黄ばんだ歯を見せて笑う。  老婆は、どこか不気味な雰囲気を漂わせているが、今はもう、そんなことはどうでもいい。縫いぐるみに一目惚れをした。  とにかくあの皇帝ペンギンの縫いぐるみがほしくて仕方がない。  縫いぐるみに近づき、穴があくほど見つめると、なんとも愛らしい顔立ちをしている。  グレーのボディーは凛々しく、小さくてつぶらな目は光沢がある。それに、黄色いくちばしはふっくらしていて、人間の唇のようだ。 「あの……これ、おいくらですか?」  ひと目見て気に入った篤は、棚から皇帝ペンギンの縫いぐるみを手にすると、老婆に訊(たず)ねた。  なるほど、王家からというのはまんざら嘘でもないだろう。  縫いぐるみの毛並みは綺麗だし、色合いも鮮やかでなかなか美しい。手触りだってシルクのように(なめ)らかだ。  王家からの物だとすると、さぞや高い品に違いない。  これから告げられるだろう金額に、緊張のあまり、口内に溜まった唾を飲み込んだ。

ともだちにシェアしよう!