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第8話 反撃

朝早く秋人はベッドから抜け出した シャワーを浴び 身を清め 服を着た それて何時もより手の込んだ料理を作り 食卓に並べた 命の好物を作った 命が起きてきて、テーブルに並ぶ料理を見て 嬉しそうに笑った 「めちゃくそ好物ばっかりやん」 「たまにはええやろ?」 「どないしたいんや?秋人?」 「どうもしてへんってば! おかしな事を言うな命は!」 明らかに… 別離を意識して… 秋人は命の姿を…瞳の奥に焼き付けた 愛してる…命 愛してる 愛してる 愛してる… 離れたくなんかない! 命 命… 僕を…離さないで! 食事が終わると命は学校に行く支度をした 何時もと変わりない日常がそこに在った だが…2度と迎えられない… 日常となる 「じゃあ、行ってくるわ!秋人!」 「行ってらっしゃい!」 秋人は行ってらっしゃい…と言いつつ 命に抱き着いた 「今日は甘えん坊やな秋人は」 命が笑ってチュッとキスを落とした 「サービスや!たまにはええやろ?」 秋人は誤魔化す 「ええな。こんな風に引き留められたら… 2度と離す気なんかないで!と抱きそうや」 朝まで濃厚な時間を送ったのに… 「命、遅刻や!」 時計を見ながら…秋人は言う 「あ!ヤベえ! 秋人、行ってくるな!」 命は秋人を離し玄関へと飛んで行く 秋人は命を見送り… 床に崩れ落ちた 無くすなら… 死んだ方がましだ 命のいない…時間なんて送れない 誰かのものになるなら… 死んでしまおう… 秋人は覚悟を決めた 命が学校に出掛けて暫くすると インターフォンが鳴り響いた 玄関に行くと…夏彦が立っていた 「支度は出来たか?」 「ええ…」 「荷物は何一つ持って行かなくて良い あちらが揃えて下さるそうだからな!」 「そうですか…」 「なら行くぞ!」 夏彦は秋人の腕を掴んだ そして引き摺る様に車まで出向くと 後部座席に座らせた 「あの方がお待ちだ!」 夏彦はそう言い…クックッと嗤い車を走らせた 夏彦が連れてきたのはエンパイヤーホテルの一室だった 部屋に入るとソファーには 国土交通省の大臣…と呼ばれる議員が… 座っていた 「お連れしましたよ与謝野さん」 「おお!ご苦労様でした」 与謝野さんと呼ばれた男は…秋人に手を伸ばした 「本当に美しい…」 そう言い…顔を撫でた 秋人の…全身を鳥肌が立った 「娘と結婚式を挙げて貰う その後、お前は私の秘書になり側にいろ!」 与謝野は至極悦に入り秋人を撫で続けた 「与謝野さん、あちらで娘さんがお待ちです!」 「このままベッドに直行したい…けど、そう言う訳にもいかぬか?」 「挙式さえ済めば、後は貴方のモノになります」 「おおお!そうであったな」 「入札価格を教えて下さる見返りです まだ教えては戴いておりませんし…」 「娘が入札価格の書類は持っておる 婚姻が終わると同時に渡す手筈は整っておるわ」 「ならば、向かいましょうか?」 与謝野は秋人を抱き締めたまま立ち上がると 「今宵は楽しみだわ!」 と、豪快に嗤った 秋人は… 抱かれたら… 死のう… と、心に決めた 高速道路を走ってホテルへ向かう その日の道路は空いていた 夏彦は 「今日は何時もとは考えられない程の空き様ですね」 と、アクセルを踏み込んだ 道路は…夏彦の車が走るだけで… 一台も通らなかった 秋人は…外を見る余裕もなく… 目を瞑り… 死刑の執行を待つ… 気分だった 順調に走っていると 道路を封鎖する様に、車が横付けに停められていた 夏彦は…慌ててブレキを踏み込んだ 「危ないだろ!」 怒りに任せて…車外に出ると そこには…命が待ち構えていた 「この道路は封鎖されてるんや!」 命は夏彦に向かって… 信じられない言葉を投げ掛けた 高速道路の封鎖など、有り得ない! 与謝野は車から降りた 「藤崎君、何をしてるんだ?」 怒りに任せて夏彦に言う 夏彦は訳が解らず… 「道路が封鎖されてるそうです…」 と、答えた 「封鎖……誰の許可を取って?」 国土交通省の大臣をしている自分を差し置いて 高速道路を封鎖など断じて有り得ない! 与謝野が出て来ると リムジンから…白のスーツを着た 堂嶋正義が降りた 「与謝野先生、男の嫁とこれから婚礼だとか? 国会をあげて祝福したいと思いますので、御待ちしておりました」 「な!!!」 冗談じゃない! 男の嫁など… 貰ったと…騒がれたら… 確実に次の選挙では落選だ 若造だが堂嶋正義は…総理の懐刀と謂われる男だった 明らかに…与謝野にとって…分の悪い存在だった 「堂嶋君、男嫁などと言う冗談は止してくれたまえ!」 与謝野は叫んだ 「え??藤崎夏彦! お前は与謝野氏に男嫁を斡旋したのではないのですか?」 堂嶋は揶揄して夏彦へ言う 夏彦は悔しそうに…唇を噛み締め…命を睨み付けた 与謝野は保身へ走った 「堂嶋君、無実無根な事を言われては困るよ!」 と、必死だった 「では与謝野先生 車内の彼を、此方へ戴いても構いませんね?」 堂嶋が言うと、与謝野は秋人を連れ出し 堂嶋へ渡した 「与謝野先生、彼は私の片腕になるべく存在の身内 軽々しく扱われる存在ではないのですよ! 私の顧問弁護士の義理の弟にも当たる方だ 当然引いて下さりますよね?」 「……私には関係がない! それを言うなら藤崎に言え! 不愉快だ!車を呼べ!私は帰る!」 「帰れますか?」 「…お前は何が言いたい!」 「談合の企ては見つかっております 貴方の娘は拘束されてますよ? さぁ、どうします?」 わなわなと与謝野は震え出した 「下手な動きは止めなさい! でなければ息の根止めますよ?」 堂嶋正義は余裕で与謝野に印籠を渡す 「……解った…お前の言い分を聞こう…」 「では、私と国会へ行くとしましょうか!」 堂嶋が言うと命は後部座席のドアを開けた 与謝野を後部座席に座らせると、堂嶋は命に向き直った 「命、お前の宝だ!大切にしろ!」 堂嶋は秋人を連れて来ると命に渡した 「…ありがとうございます正義さん」 「俺は甘くはない お前の未来を貰った代価だ!」 堂嶋は命の肩を叩き、後部座席に乗り込んだ 堂嶋のリムジンが走り出す するとその後ろに停まっていた車から、漆原弁護士が姿を現した その後ろのワゴン車から漆原の妻、晴香も姿を現した 「秋人!大丈夫?」 放心状態の秋人を心配して…晴香が問い掛ける 命は秋人を腕の中に抱き締め 「何が大丈夫や! 何でも言うや! 嘘ばっかりやないか! 俺は怒ってるんやで!秋人!」 と、腕の中の秋人に言った 秋人は…命の匂いに…正気に戻った 気持ち悪かった… 死んでしまいたい程に… 死のうと思った 命以外の人間に… 触られたくなんかなかった 「命…命…」 秋人は泣き出した 「アイツのモノになるなら… 死のうと思った…」 秋人は…苦しかった胸の内を命に話した 「秋人…」 命は秋人の呟きに… 怒りが込み上げて来た 夏彦に向かって 「今後一切、秋人には手を出すな!」 と、宣言した! 夏彦は悔しそうに命を睨み付けていた 「もう用などない!」 婚姻が解消された今 秋人に利用価値などなかった 晴香は夏彦の前に出て 「藤崎興産は藤崎夏彦を解任した! お前は会社を私物化して実績と信用を失墜させた 代表の座は降りて貰うよ!」 「な!!」 夏彦は…晴香の言葉の意味が解らなかった 「ならば!誰が藤崎を継ぐと言うのだ!」 夏彦は言い捨てた! すると修一が父である夏彦の前に出た 「藤崎興産は俺が継ぐ!」 と、宣言した 「貴様が?そんなバカに出来ると思うのか?」 「親父、藤崎興産の資産の大半がなくなる 小さい…工務店位にしか残らないかも知れない それでも俺は藤崎興産と言う名は遺すつもりで継ぐつもりだ!」 「今の状態で残らぬのなら意味はない!」 夏彦は叫んだ 「言ってろよ!親父 てめぇが潰した会社じゃねぇかよ! 兄弟や子供を犠牲にしてのし上がろうとした 会社じゃねぇかよ! 兄貴や姉貴はおめぇの犠牲になり人身御供にされた! そして心を病み…ごみ同然に捨てられた! そんな会社だけどな、じぃちゃんが生きてるうちは潰したくねぇんだよ!」 晴香が夏彦の前に出た 「夫の孝人が整理に当たります! 会社はこれ以上存続させるのは無理と踏んで廃業の道を取ります!」 「廃業…?」 「父さんが生きてるうちに破産などさせたくはないので! 父さんが作った会社だ! お前が潰した会社だ! 違うか? お前は子供も使って会社をデカくしようとした だが子供はお前の道具ではない 心を病んだ栄一と瑠璃子は私が拾った もうお前の事を親となど思わないだろう お前は…裸の王様になって君臨し続けて来たんだ そろそろ解る時が来たんじゃないのか?」 「姉さんのお好きどうぞ!」 夏彦は言い捨てた 「夏彦、家は抵当に入ってる お前の妻と子供は家を出た お前も荷物を纏め出て行け!」 夏彦は何も言わず… 車に乗り込んだ そして車を走らせた…消えて行った 晴香はため息を着いた 泣きじゃくり命に縋り着く秋人は幼く見えた 子供の頃… 夏彦に責められても絶対に涙は見せなかったのに… 歯を食いしばって何時も耐えていた 幼い弟が不憫だった 今こうして泣いている姿を見て 晴香は安堵していた 泣けるようになったんやね…秋人 晴香の息子の当麻がワゴン車から出て来て 「母さん!封鎖出来る時間には限りあります! これ以上は無理なので車に乗って下さい!」 と、道路の封鎖の限界を告げた 「命、ワゴン車に乗りなさい!」 晴香はそう言いワゴン車の運転席に乗り込んだ 命は秋人を抱き上げ、ワゴン車に乗り込んだ それを確認して晴香は車を出した 「命、何で堂嶋を釣ったんだ?」 車を運転しながら、晴香は命に問い掛けた 堂嶋正義は甘くはない ボランティアで高速道路を封鎖してまで、付き合ってくれる人物でない 「俺の人生くれてやった」 晴香は、え??命の人生?? と、問い掛けた 「俺は今まで同様、アイツの手足になって動く影になる 俺は高校卒業すると止めると言っていた それが止めずに永遠に手に入るなら…安いもんだろ? しかも敵対していた与謝野も黙らせれる 堂嶋を動かす材料は揃っていたからな 食い付くと想ってた!」 命はそう言い嗤った 恐ろしい奴 堂嶋正義は常日頃から、命の手腕を買っていた 俺の人材に欲しい それが堂嶋正義の言葉だった  今までは便利屋と言う職種の中で動いていた それが今後は堂嶋の好きな時に使えると言う訳だ 食い付かない奴ではない 況してや青田刈りをさせてやると、本人が言っているんだ 道路封鎖で着くなら安いものだと 嗤う堂嶋正義を思い浮かべ…晴香は眉を顰めた 「大盤振る舞い過ぎる…」 晴香が言うと 「堂嶋にも言われた」 と、命は笑った 「俺は秋人を手放す気はねぇからな 堂嶋の望むものをちらつかせするしか方法はなかった」 「パクッと食いついただろ?」 「あぁ、見事に食い付いたわ」 自分の人生を擲ってでも手離したくない秋人だった 秋人が手に入るなら… こんな人生など…どうでも良かった 「命、家まで送ればええんか?」 「秋人と俺の家まで送ってくれたら…有り難いわ」 「送ってやるからなバイト、頑張って貰うで!」 晴香は笑った 「腕によりをかけるわ!」 命も笑った 晴香は秋人の家まで送ると車を停めた 「寄ってく?」 車から降りた命が晴香に問い掛ける 「今は止めとく! その変わり明日は家族で押し掛ける 藤崎の家の事を相談せなあかんやん 明日までに使える様にしとくんやで命!」 「俺の愛があれば秋人は生きて行ける 俺も秋人の愛があれば生きて行ける 秋人を抱いて俺の愛を体躯で解らせれば使える様になると思うわ!」 命は隠さない 秋人と命 親子だけど愛し合いセックスしてると… 暗に匂わした 「なら、秋人を沢山可愛がったり! 明日、昼過ぎに来るからな!」 晴香は爆笑した そして、車を走らせた…帰っていった

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