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5-8 ぶつかる思い

騎馬から降りて、前線で勝敗の行方を見守る。 両者のナイトが互いにお辞儀をして、武藤君、藤澤君が騎馬に乗った。 二人が睨み合う。 そして、ピストルが鳴った。 両者互いに激突。二人の思いがぶつかり合う。 「藤澤ーーーーー!!」 「武藤ーーーーー!!」 両者の声が会場に響き渡る。 ――――――――――――――― (視点:藤澤君) 俺は、思い出した。 放課後、部活でサッカーをしている時、こちらを見つめる人がいた。その人の目は、どこか寂しそうだった。その人は、試合にブラスバンド部の応援として来てくれた。高三で初めてその人と同じクラスになった。その時、初めて名前を知った。山口愁という名前だった。気づくと、山口は、よく俺を見つめていた。その目は、あの時と何も変わらない。話かけると、いつも照れていた。俺は、その目が自分を慕う目だということをなんとなく感じた。けれど、俺は、ずっと人を好きになるということがわからなかった。告白されたら、なんとなく付き合う。そして、いつも必ず、好きかと聞かれ、俺は答えることができない。そうして、振られるのがいつもの流れだった。 好きという感情がわからないんだ。 それがどんなものなのか。山口と同じ班になり、一緒に行動することが増えるにつれて、俺の中で何かが変わった気がする。山口を見ていると、たまに危なっかしいところがあり、支えたくなる時がある。事故ったと聞いた時、身体が震えた。今までにない感覚を覚え、それが、恐怖だと気づいた。俺は、山口を失うことに恐怖したんだ。幸い、すぐに学校に来た。顔を見た時、安心し、今までの不安が解消された。けれど、少し様子が変で、記憶喪失だとわかり、少しでも支えられたらいいなと思った。それから、偶然、一緒に海へ行くことになった。海で、はしゃぐ姿は無邪気だった。ビーチドッチボールでふと目を離すと、顔面でボールを受けていて、俺がいないとダメだと思った。山口といると心が温かくなり、次第にもっといたいと無意識に思うようになった。だから、来年も一緒に海へ来ようと口から出た。それから、登山の時、俺が目を離したら、怪我をしていた。山口は、自分よりみんなを優先するやつだから、怪我を隠していることにはすぐに気づいた。だから、俺は、共にビバークをした。山口を守りたい、そう強く意識したんだ。夜に強く抱きしめると、鼓動を感じ、そばにいたいと思うようになった。今までとは明らかに違う感情を山口に抱いたんだ。今回の勝負を挑まれた時、勝負に乗った。山口を誰にも取られたくない。こういう感情が、恋とか愛とかいう感情なんだと思う。山口を見ると、心が温かくなり、守りたくなる。あいつの涙はもう見たくない。 ―――――――――― ――――――――――― (視点:武藤君) 俺は、思い出した。 初めて愁と出会ったのは、高二の総体試合だった。試合は、接戦で、9回裏、ここで点を取らない限り、勝つことはできない。そのバッターに俺が回ってきた。いつも通り、ブラスバンド部が応援していた。自分でも緊張しているのがわかる。ここで打てなかったら負け。握ったバットが震える。一回目、振り切ったが、空振り。そして、二回目も。三回目になった時、どこからか変な音が聞こえてきた。全員がブラスバンド部の方を向いた。そこには、吹きながら謝っている愁がいた。その顔が、どこまでも可愛かった。俺は、自然と緊張が解け、打つことができた。結果、ホームランでその試合は、勝った。もう一度、愁の顔を見ると、笑っていた。その顔が愛らしかった。それから、廊下で会った時に声をかけてみた。愁は驚いていたけど、会うたびに、絡むようにした。嫌がっていたが、その表情も可愛かった。俺は、愁に恋をしたのだと気づいた。それから、高三となり、初めて同じクラスとなった。愁の席がたまたま後ろになって、俺のテンションは上がった。毎日、声をかけた。うざがっていたけど、いつも優しく対応してくれる。根っからの優しい奴なんだと感じた。愁が事故に合った時は、心臓が止まるぐらい驚いた。すぐに会いに行きたかった。でも、何て言ったらいいかわからなかった。幸い、すぐに退院した。久しぶりに登校した愁は、事故の影響かわからないが、どこか混乱しているようだった。凛から記憶喪失だと聞いた。なぜか俺のことは覚えていた。それが、無性に嬉しかった。俺は今まで以上に接することにした。支えることができるところは、全力で支えた。次第に元通りになり、安心した。海の話を聞いて、飛び乗って正解だった。海では、愁の水着姿が見れて、相変わらず可愛かった。その頃には、俺が絡んでも慣れているみたいだった。海は、楽しかったし、怪談話で怖がる顔も可愛かった。だが、俺は気づいた。愁の心は、違う奴を見ていた。俺は、あいつの中には、いなかった。けれど、諦められなかった。それから、登山で、愁と登ることになった。愁は、あまり体力がないから、愁のペースに合わそうと決めていた。ただ愁だけを見ていた。下山中に、尻餅を着いた時、冷や汗が出た。本当にそそっかしいやつだ。慎重に下山していたが、遭難してしまった。しかも愁は、俺が知らない間に怪我をしていた。あいつは、愁の怪我に気づいていた。俺は、ずっと見ていたのに気づけなかった。しまいには、泣かせてしまい、ビバークまでさせてしまった。俺は、自分の不甲斐なさを恨んだ。無事に生還できたが、愁の心に、ますます俺が入れなくなってしまっていた。ただただ、悔しかった。そして、俺は、告白することを決めた。どうしても自分の気持ちをぶつけたかった。告白した時、愁は、戸惑っていた。優しい奴だから、俺を傷つけられないんだと思った。あいつのことが好きなのをわかっていて、俺は、告白をしてしまった。悪かったなと思う。たまたまあいつが教室に来てしまったから、怒りに任せて勝負を挑んだ。どうせ勝っても結末は変わらないとわかっているのに。愁の中に、俺は、決して入れない。そんなことは、わかっているのに、勝負を持ちかけた。俺も、どうしてこうなったのかわからない。愁は、俺らの勝負のために、騎馬戦に出てくれた。 俺は、愁が好きだ。本当に、好きだ。 これ以上、愁を傷つけるのはやめよう。 ――――――――――――― 武藤君がほんの一瞬だけ僕を見た。 藤澤君は、その隙を見逃さず、一気に攻勢をかける。 そして、武藤君の騎馬が崩れていく。 その光景を眺めながら、崩れゆく武藤君と目が合った。静かに笑い、今まで見た中で最も優しい顔だった。 その顔を見て、涙が溢れてきた。 苦しくて、辛くて、いろんな感情が僕の中でぐちゃぐちゃに混ざり合う。 武藤君は、きっと知っていたんだ。 僕の気持ちも、そして、この結末がどっちに転んでも、自分には、勝利がないことを。だから、僕を苦しめないために、自分から負けたんだ。 駆け寄りたい、けど、それは、僕には、できない。 そんなことは、できないし、する資格もない。 その場でただ見ていることしかできなかった。 勝負を終えた藤澤君が、僕の方へ来る。泣き続ける僕を辛い顔で見つめる。 「もう、終わった。」 僕の肩にそっと手を当てる。その手の温もりを感じて、足下がぐらついた。 あぁ、もう終わったんだ、、、 泣き崩れる僕を藤澤君は、強く支えてくれた。 あぁ、痛い、とても、痛いよ、、 身体の痛みを感じる、けれど、心の方がそれ以上に痛い。 あぁ、辛い、とても、辛いよ、、 こんなこと、もう、やりたくない。 涙が止まらない。止められない。 今まで我慢していた感情が、一気に溢れ出した。 こうして、騎馬戦は終わりを告げた。

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