69 / 91

7-2 動物園デート

明日は、待ちに待ったデートの日だ。 タンスから服を引っ張りだし、着る服を選んでみる。 うーん、これでもないし、、 これも違う、、 どんなのが気にいるのかなぁ、、 突然、夏兄が部屋に入って来た。 「何やってんだ?」 「もう、急に入ってこないでよ。ビックリするよ!」 「そんなに服を広げて、どうしたんだ?」 「いや、別に何でもないよー、出てってよぉーー」 「デートか?」 夏兄が、からかってきた。 「ち、、ちがうよ!!もう、出てってーー」 僕は、夏兄の背中を押す。 「愁は、オレンジ色が似合うんじゃね?」 「もうわかったってーー」 やっと、夏兄が出て行った。 そっか、オレンジかぁ、、 オレンジ色の服を着て、鏡を見てみた。 確かに、いいかも、、 「可愛いぞ!」 夏兄が扉の隙間から覗いていた。 「もう、夏兄のバカ!!」 僕は、枕を投げつける。 「おっ、こわ!」 今度こそ、どこかへ行ってくれた。 悩んだ末、オレンジ色のカーディガンと青色のデニムにした。 あっ、そうだ、咲父さんにお願いをしないと! 一階に降りて、咲父さんに相談した。 「明日ね、動物園に行くことになったんだ。でさぁ、相談があって、、」 「相談?響君たちと行くの?」 「えっと、今回は、違うんだ、、、」 「誰と行くの?」 「藤澤君、、、」 「聞いたことのない名前だね。新しいお友達?」 「えっと、、その、、」 「恋人です!」 後ろから夏兄がふざけたように言った。 「ちょ、、っと、、やめてよ、、」 「そうなの?」 「、、うん、、」 僕は照れながら頷いた。 「やっぱりな!デートじゃなきゃ、あんなにタンスから服、引っ張り出して、どれにしようかなってやらないだろ!」 夏兄は、笑いながらからかう。 「そっか、愁君にも恋人ができたんだね。おめでとう!」 咲父さんは、笑顔で祝福してくれた。 「あ、ありがとう、、、、」 「で、藤澤君は、どんな人なんだ?」 夏兄が横から聞いてきた。 「もう、夏兄は、どっかに行ってよー」 僕は、夏兄を他の部屋に連れて行くと、また、今いた部屋へ戻った。 「それで相談は?」 「お弁当を作りたいんだぁ、、」 「いいね!明日の朝、早く起きて一緒に作る?」 「うん。」 「はー、かいがいしいね。」 夏兄が、戻って来て話に入る。 「もうー!!!怒るよ!!!」 「また、怒った!」 おどけて笑っていた。 こうして、明日は早起きして、お弁当を作ることになった。 デート当日。 いつもより早く起きて、一階に降りると、咲父さんは、すでに準備をしていた。 「おはよう!」 「おはよう!準備しといたよ。」 あんまり料理をしたことがなかったので、咲父さんに一から丁寧に教わり、お弁当を作った。卵焼きやウインナーなどを入れた定番のお弁当だ。おむすびも、少しだけ不格好だったけど、頑張って作った。 「うん。いい感じだね!」 「喜んでくれるかなぁ、」 「大丈夫!きっと喜んでくれるよ!」 「ありがとう!」 僕は、身支度を整え、作ったお弁当を持って、待ち合わせ場所へ向かった。そこには、すでに藤澤君がいて、青のインナーに黒のジャケットで、黒のパンツを着ていた。 待っている姿もかっこいいな、、 「ごめんね、待った?」 「いや、今来たとこ。」 「そっかぁ、よかったぁ、」 「行くか。」 「うん。」 藤澤君と並んで歩く。学校外で会うのは、海以来で、右横を歩く藤澤君の顔を見ていると、夢だと錯覚しそうになる。 「前、向けよ。危ないぞ。」 「あっ、ごめん。」 藤澤君が、少し笑ったので、つられて、僕も、笑ってしまう。 駅のホームに着き、海へ行った時とは、逆方向の電車に乗った。動物園は、ここから三駅で、駅から二十分ぐらい歩いたところに位置している。一緒に座りながら車窓を見ると、緊張している自分に気づいた。藤澤君は、緊張してないのかなぁ、、、 つい、横顔を見てしまう。 「見すぎ。」 藤澤君が、また笑った。 「ごめん、、つい。」 僕は、照れてしまった。 けど、藤澤君、かっこよすぎるんだよ、、 しばらく、おとなしく変わりゆく景色を見ていた。あっという間に着き、駅のホームには、動物園の案内が詳しく書いてあった。 「この道をまっすぐ行けばいいんだな。」 「そう、みたいだね。」 僕らは、動物園へ続く一本道を歩き始める。 「今日は、いい天気だね。よかったー」 「そうだな。」 「藤澤君は、動物園に行ったりするの?」 「あんま、行かないな。山口は?」 「中学生以来行ってないかなぁ、今日は、久しぶりだから、楽しみ!」 「何で、動物園にしたんだ?」 「えっと、、特別な理由はないんだけど、、土日は、高校生無料って優君が教えてたくれたから、いいかなって、」 「そうだったのか、誘ってくれてありがとな!」 「ううん。僕の方こそ一緒に来てくれてありがとう!」 本当は、一緒にポニーを見たいんだぁ。それは、内緒にしておこう。 「はぁ、はぁ、」 思いのほか、坂がきつい。 「大丈夫か?」 「うん、大丈夫。あと、もう少しだから、頑張る!」 藤澤君は、僕のペースに合わせてくれた。ふと登山のことを思い出す。あの時も僕を心配してくれた。あの時と何も変わらなく優しいままだ。 坂を上りきると、動物園の入口が見えた。 「やっと、着いた!」 僕らは、入場口へ行く。学生証を見せると、無料で入れてくれた。 入ると、すぐにゾウが見えて、僕は走り出した。 「おい、待てよ!」 「はやく、はやくー!!」 僕は、笑顔で手を振った。 ゾウの前に着き、二人並んで見る。 「わぁーすごい!!大きなゾウ!!」 「ほんとに、でかいな。」 僕は、ゾウの写真を撮った。そして、横で見ている藤澤君も撮った。 「おい、勝手に!」 「いいじゃん!」 「じゃ、俺も。」 藤澤君が携帯を手に僕を撮った。 「恥ずかしいよぉー」 「なんだよ、俺のは勝手に撮って、じゃあ、一緒に撮ろう。」 僕らは、近づき一緒に撮った。至近距離のせいで顔が赤くなる。 「はい、チーズ」 綺麗な一枚が撮れた。初めてのツーショットだ。 藤澤君は、どこまでもかっこよくて、気づいたら、また顔を見ていた。 「マジ、見すぎ。」 また笑った。本当によく笑うようになったなと思う。 「だって、、かっこいいんだもん。」 僕は、照れながら言った。 「学校でもよく見てるよな。」 「えっ、気づいてたの?」 「あぁ、だいぶ前から。」 「いつから?」 「高一から。」 「嘘、、」 「ほんと。」 藤澤君は優しく微笑んだ。 「えっー、なんでーー、もう、恥ずかしい、、さぁ、早く次に行こう!!」 初めからばれてたなんて。 あぁ、もう、どんだけ、僕は、藤澤君を見てたんだよぉー。 次は、キリン、ラクダ、と半分の動物を見終わったところで、大きな原っぱに着いた。ちょうど、ベンチやイスがあり、昼ごはんを食べることができそうだ。 「けっこう、動物見たね。」 「あぁ、そろそろ昼にするか。どっか、店に入るか?」 「えっ、と、、、お弁当作ってきたんだ、、、」 「マジか?」 藤澤君が喜んでくれている。 「うん」 作ったお弁当を見せた。 「嫌いな物がなかったら、いいんだけど、、」 「どれもおいしそうだな。嫌いなものなんかないよ。」 僕らは、一緒にお弁当を食べる。 「うまい!」 おいしそうに食べてくれる。 「よかったー」 あっという間に食べ終えた。 「ありがとな!」 「ううん、喜んでくれてよかったよ!」 しばらくして、残りの動物を見て回ることにした。 「あっ、ポニーだ!」 いよいよ、見たかったポニーが見えて来て、僕は勢いよく駆け寄った。 「ポニーか。」 藤澤君も僕のそばにくる。 ハート模様がいるポニーを懸命に探すけどいなかった。なんでだろう、、 「そろそろ、次行くか!」 「えっ、ちょっと待って。」 「あぁ、いいけど、どうした?」 「いや、別に、、、、ただ、ポニーをもっと見たいなぁーって、」 「そっか。」 目を凝らして、何度も何度もハート模様のポニーを探すけど、いない。 隣の見知らぬ二人組が話している。 「ハート模様のポニーいないねぇー。」 「何それ?」 「知らないの?恋人同士で見たら、ずっとそばにいられるんだって。」 「へぇー、そんなんがあるんだー」 「仕方ないや、、、次行こう、」 「もしかして、ハート模様のポニー探してるのか?」 「うん、、、」 その時、小屋の中から一頭のポニーが出てきた。そのポニーの背中には、ハート模様があった。 「あっ、ハート模様だ!!」 しばらく二人でポニーを眺めていると、突然、手を握ってくれて、握られた手に温もりを感じた。 ずっと一緒にいられますように、、 そろそろ次の動物のところへ行くことにした。チーターが見えてきた。 「すげぇーな!」 藤澤君が、目を丸くして喜んでいる。 「チーター好きなの?」 「あぁ、あの速さに憧れる。」 「チーター速いもんね!」 僕は、校庭を走る藤澤君を思い出した。 チーターかぁ、、かっこいいなぁ、、 藤澤君とチーターを少しだけ重ねて見ると、なんだか、それがおかしかった。 「何笑ってんだ?」 「何でもないよー。」 「今、変なこと考えていただろ!」 「違うよー。」 僕は、また、笑ってしまう。 「教えろー」 「教えない―」 僕らは、お互いに笑う。 あっという間に動物を全て見終わり、最後にお土産さんがあった。 「何か買っていくか?」 「うん。」 色々なお土産を見て回ると、チーターのキーホルダーを見つけた。 「これいいんじゃない?」 「いいな。これは、どうだ?」 同じ大きさのハート模様があるポニーのキーホルダーを見せてくれた。 「可愛い!」 「買ってやるよ。」 「えっ、、じゃあ、僕は、これ買うね!」 僕らは、お互いに買い、プレゼントした。 「絶対に大切にするね!」 「俺も」 動物園を出て、帰り道を歩き始める。 「あっという間だったね。」 「また来ればいいさ。」 「絶対、また来ようね!」 僕らのデートが終わろうとしている。 帰り道は、早くて、あっという間に改札口へ着いた。 あぁ、この改札口を通りたくないな、、 突然、藤澤君が提案した。 「少しここら辺、見てみるか。」 「いいの?」 「せっかく来たしな。」 「やったぁ!」 この駅の周辺を見ることにした。少し歩くと川があって、その近くに綺麗な公園があった。 「綺麗な公園だね。」 「サッカーするか?」 リュックからサッカーボールを取り出した。 「すごーい!いつも入れてるの?」 「まぁな。」 リフティングを見せてくれた。まるでボールがくっついているようだ。そういえば、こうして藤澤君のサッカープレイを近くで見るのは、初めてだと思った。 やっぱり、楽しそうにするなぁ、、、 根っからのサッカー好きなんだね、、 「やってみるか?」 「いいの?」 「あぁ」 サッカーボールを貸してくれた。ボールを足首で蹴ってみたけど、全くうまくできない。 「ダメだぁ、まったくできないやぁ」 「こうやるんだ。」 丁寧に教えてくれたけど、なかなかうまくできなかった。 「なかなか、うまくできないね、、、」 「まぁ、練習あるのみだな。」 「藤澤君は、幼い頃からやってるの?」 「そうだな。」 「すごいね!」 「そんなことない、、俺みたいなのたくさんいるから。」 「そうなの?」 「あぁ、全国にうまいやつはもっといる。」 いつの間にか、夕日が出ていた。 「この前の登山の時、将来の夢は、サッカー選手って教えてくれたけど、大学は行くの?」 「行かない。卒業したらプロに行く。」 「すごい!もうどこかに決まってるの?」 「一応な。」 「夢が叶いそうだね!」 夕日を見る目は、どこか寂しげだった。 「嬉しく、ないの?」 「まぁ、嬉しくないってわけじゃないけど、親がな。うるさくて。」 「喜んでくれないの?」 「まぁ、、な」 「僕は応援するよ!!」 「ありがとな。そろそろ行くか!」 藤澤君は、ニコリと笑った。 僕らは、改札口まで戻り、電車に乗った。そして、待ち合わせ場所の銅像の下に着く。 「今日は、ありがとな!弁当、おいしかった!」 「僕の方こそ、ありがとう!」 「また明日学校で!」 「うん!またね!」 僕は、手を振り、それぞれの帰路に着く。 いつしか夕日は沈み、街灯が点いていた。帰り道、初めてのデートの幸せをしみじみと感じる。今までの自分では、有り得ないと思っていたことが、今では、起きている。足は軽くて、すぐに自宅に着いた。 「ただいま!」 「おかえり!」 咲父さんと夏兄が迎えてくれた。 「どうだった?」 夏兄が興味津々で聞いてくる。 「楽しかったよ!」 僕は、満面の笑みで答えた。 「そっか、そっか」 夏兄は、笑っていた。お土産として買ったビスケットを渡した。 「写真ねぇーの?」 ビスケットを食べながら夏兄が僕に聞く。 「ないよぉー」 嘘をついた。 「あっ、その顔は、あるな!見せろ!!!」 「ダメーー!!」 「こら!!悪い子には、お仕置きだぞ!!」 思いっきりくすぐられる。 「わかったよ!!」 僕は、しぶしぶ二人で撮った写真を見せた。 「かっこいいな!!」 「ほんと。かっこいいねー」 いつの間にか咲父さんも見ていた。 二人に褒められ、なんだか鼻が高かった。 「もう返してーー」 携帯を取り返し、二階に上がる。その写真を眺めていると、リンクが点灯した。 「ありがとな。(笑顔チーター)また行こうな!」 あぁ、幸せだ。 「うん(ハートスタンプ)行こう!」 リンクを終え、ポニーのキーホルダーを取り出し、それをカバンにつけた。これをつけていると、藤澤君をそばで感じられる気がする。 こうして、初めてのデートは終わった。

ともだちにシェアしよう!