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7-4 嘘
二週間後のお昼休み。
校庭を見たら、藤澤君が、サッカーボールを蹴っていた。それを見た瞬間、すぐに校庭に走って行った。
「もう大丈夫なの?」
「あぁ、もう痛みもないし、問題ないさ。」
「そっかぁ、よかったーー」
「心配かけたな。」
リフティングをしながら答えてくれる。
「ううん、怪我には、気をつけてよ!」
僕は、藤澤君が楽しそうにやるリフティングを見て、やっと安心することができた。
突然、東条君が走ってきた。
「恭くんーーまだ、やっちゃダメだよ!!」
「痛みねぇーし、問題ないさ!」
「ダメだって!!先生にもまだ止められてるじゃん!」
東条君が、怒っている。
「わかった。」
藤澤君は、リフティングをやめた。
「愁くんも止めなよ!」
東条君は、僕を睨んだ。
「ごめん、、、まだ止められてるの知らなくて、、」
「肉離れは、くせになりやすいんだよ。このせいで、プロで活躍できなくなった選手が、たくさんいるんだから。もう少し恭くんのことを考えてあげて!」
「そうなんだ、、ごめんね、、、」
僕は、藤澤君と東条君に謝った。
「おい、瞬、そこまで言わなくていいだろ!」
「オイラは、恭くんが心配なんだ。プロで活躍して欲しいんだよ!」
この時、東条君の思いを改めて感じた。
東条君の目は、僕が藤澤君を見つめる目と似ている。
きっと僕と同じなんだ、、
ちょうどチャイムが鳴り、僕らは、教室に戻った。
授業中、東条君に言われた言葉が頭の中から消えない。
もう少し恭くんのこと考えてあげて、、、
僕は、藤澤君のことをいつも考えている。それは、自分本位で本当は、藤澤君のことをちゃんと思っているのだろうか。サッカーのことはわからないけれど、もっと話をしていれば、わかったのかもしれない。怪我が悪化したら、僕のせいだ。もっと、注意深くなるべきだった。
僕は、反省と後悔に打ちひしがれていた。あとで、藤澤君とちゃんと話そう。
そして、放課後になり、藤澤君に話かけた。
「あの、、」
「ごめん。これから、リハビリなんだ!またね!ほら、恭くん行こう!」
東条君が、僕の言葉を遮った。
「どうした?」
藤澤君が心配してくれる。
「いや、大丈夫!リハビリ頑張って!」
「ほら!ほら!」
東条君が藤澤君の背中を押して、足早にどこかへ行ってしまった。
僕は、何も力になれない。
ただ後ろ姿を見ていることしかできなかった。
いつもの帰り道。
「元気ないね。」
「藤澤君、怪我してるって言ったじゃん、今日ね、お昼休みにサッカーやってたんだぁ、、」
「うん、、、」
「それでね、すっかり怪我が治ったと思ったんだけど、まだ安静にしないといけないんだって、、、そう東条君に言われちゃって。」
「そっかぁ、、」
「肉離れって、ちゃんと治さないと、くせになって、プロで活躍できないかもしれないんだって、僕、そんなこと知らなくて、、、」
「うん、、」
「藤澤君のことを考えてって、、言われて、、僕、今までちゃんと考えてなかったのかなって、、」
いつしか僕は泣いていた。
「そんなことないよ。愁君は、ちゃんと考えていたよ。自信もちなよ!」
「そう、、、かなぁ、、、」
「サッカーのことは、詳しくわからないけど、藤澤君に、愁君の思いはしっかり伝わってるはずだよ!」
「響君にそう言ってもらえて、嬉しいよ、、」
響君という親友がいてよかった。少しだけ気持ちが楽になった。
しばらくして、藤澤君の怪我が完全に治ったと聞いた。
大喜びして、祝福の言葉を述べた。けれど、その時の藤澤君の顔は、どこか浮かなくて、どうしてそんな顔をするのか、僕にはわからなかった。そして、その日は、体育の授業があった。サッカーをやることになり、チームを二チームに分けた。僕と武藤君と重岡君が同じチームで、優君と凛君と藤澤君と東条君は違うチームだ。なぜだか藤澤君は、全く楽しそうじゃなかった。
東条君が藤澤君を誘っている。
「恭くん!サッカーやろう!」
「いや、いい。」
どうしたんだろう、、
大好きなサッカーを断るなんて、、
「どうした?怪我が治ってないのか?」
凛君が聞いた。
「あぁ、」
怪我は、治ったって聞いたのに、、、
藤澤君は、怪我を理由に見学することになった。
「愁君、大丈夫?」
優君が話かけた。
「あっ、うん。」
「試合、始まるよ。」
「うん、、」
サッカーが始まり、試合中、ところどころで藤澤君を見つめた。遠くでサッカーを見つめる藤澤君の顔は、どこか違うものを見ているように感じる。
試合後、藤澤君に話かけた。
「どうしたの?まだ、怪我が治ってなかったの?」
「いや、そういうわけじゃないんだ、、」
「じゃあ、、、何で、、、」
藤澤君は、何も答えず、一人で教室へ帰って行った。
何があったんだろう、、、
治ったって聞いたのに、、、
なんで、サッカーをやらないんだろう、、
僕は、一人で帰る藤澤君の後ろ姿を見ていることしかできなかった。
その後の授業中。
藤澤君の顔を見ると、その顔は、いつもと違って辛そうに感じた。
放課後になり、東条君が藤澤君を部室へと誘っている。藤澤君は、断っているようだ。東条君が背中を押して、藤澤君を部室へ連れて行こうとする。
僕は、気になったので、追いかけてみた。二人は、校庭で立ち止まり、僕は、近くに隠れた。
「悪いけど、帰る。」
「なんでー怪我はもう治ってるじゃん!!」
「もういいんだ。」
「一緒にサッカーやろうよ!」
「ほっといてくれ!」
藤澤君が怒り、こちらへ歩いてきた。
隠れていた僕と出会う。
「山口、、、」
それだけ言い、足早に去って行った。
「恭くーん、待ってよ!!」
東条君が走り、僕を一瞬だけ見て、そのまま藤澤君を追いかけて行った。
僕は、その光景を見ていることしかできなかった。
藤澤君、どうしちゃったんだろう、、、
追いかけることもできず、そこに立ちすくむ。
冷たい風が吹いた。
あぁ、寒いなぁ、、
いつの間にか、響君が横にいた。
「なかなか来ないと思ったら、こんなところで何してるの?」
「響君、、、」
僕の目は、うるんでいた。
「どうしたの?また、何かあったの?」
「藤澤君がね、、藤澤君がね、、、」
僕は、泣いてしまった。
どうしたらいいんだろう、、
わからないよ、、、
黙って響君が抱きしめてくれた。しばらくして、僕は、落ち着きを取り戻す。
「藤澤君がどうしたの?」
「サッカーをやらなくなって、、怪我は治っているのに、、」
「そっか、、」
「僕、、どうしたらいいか、わかんなくて、、、」
「話を聞いてあげなよ。話を聞かないと何もわかんないよ。」
「そうだよね、、けど、話しにくくて、、」
「明日、土曜日だからどこかに誘ってみたら?」
「そっか、誘ってみるよ、、、」
また、僕は、響君に助けられた。
藤澤君に寄り添いたいのに、うまくできない、、
こんなにも好きなのに、、、
対面で誘うより、リンクを使った方が誘いやすかったから、リンクで誘った。
この間、ポニーのスタンプを買ったんだ。ポニーを見ていると、藤澤君を感じることができる。これを使ってみよう。
土曜日か日曜日、空いてる?(ポニー涙目)
両方、空いている(チーターOK)
どこかに行かない(ポニー疑問)公園とかでもいいから(ポニーお願い顔)
いいよ(チーターOK)土曜日にする(チーター疑問)
(ポニーOK)じゃあ、10時に銅像前で?(ポニー誘う)
(チーター了解)スタンプ可愛いな!
(ポニーありがと)
土日、両方とも空いてるんだぁ、、
サッカーは、どうしたんだろう、、
いや、今は、考えない、、明日、ちゃんと聞こう。
大丈夫。きっと、大丈夫だよ。
僕は、ポニーのキーホルダーを見つめた。
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