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7-5 公園
翌日。いつもより、早く目が覚めた。
今日は、藤澤君の話を聞こう。ただ、そのことだけに集中しようと思った。
待ち合わせ場所に着くと、藤澤君は、まだいなかった。
「ごめん、待った?」
駆け足で来る藤澤君を見て、僕のために、走ってくれたことが嬉しかった。
「ううん。大丈夫!」
「どこ行く?」
「公園でいいよ、」
ただ、話が聞きたいんだ。
「じゃあ、あそこの高台の公園に行くか。」
「うん。」
僕らは、歩き始める。しばらく歩くと公園に着いた。
この公園は、高台に位置していて、たくさんの木々が並んでいる。前回来た夏とは違い、木々たちが、冬支度をしようとしている気がした。
「懐かしいなぁ、、」
「ここの公園は、いつ以来だろ。練習でも来ないしな。」
たくさんの木を一緒に見る。
なんとなくその木が、こちらを見ている気がする。
木々の真中らへんに、一つのベンチを見つけた。
「あそこに座る?」
「いいな。」
一緒にベンチに座り、たくさんの木に囲まれる。
僕は、大きく深呼吸をした。
そして、聞きたかったことを聞いた。
「どうして、サッカーやらないの?」
「やっぱり、そのことか、、、」
「怪我は治ってるんだよね?」
藤澤君は、黙ったままだ。
「やらない理由を教えてほしい、、僕、、聞きたいんだ。」
藤澤君は、僕の顔を見て言った。
「わかった。」
そして、遠くにある木を見つめ、静かに話し出した。
「俺、今回怪我しただろ?幼い頃からサッカーやってきたんだけど、今までこれといった怪我をしたことがなかったんだ。今回、怪我をして、怪我自体は治ったんだけど、肉離れだから、もしかすると、また起こるかもって言われて、まぁ、スポーツやってれば、みんな多かれ少なかれ怪我はするんだけどな。」
僕は、黙って聞く。
「それで、親がこれを機にまた反対しだして。」
「この前、喜んでくれてないって、、」
「あぁ、もともと、俺の両親は、一人が大学の先生で、もう一人が高校の先生なんだ。兄貴も、大学の先生になるらしいし、」
「そうなんだぁ、、みんな先生なんだぁ、」
「先生のせいかわかんないけど、昔から、うるさくて。サッカー選手には、なれない。なれたとしても、すぐに活躍できなくなるからって反対してて。今回のプロ行きが決まった時、いつものように反対して、今度行くチームの監督がなんとか説得してくれたおかげで、しぶしぶ認めてくれたんだ。で、今回、怪我をして、それでまた、反対しだしたんだ。」
藤澤君の横顔が痛々しく感じて、そっと手を握った。
「ずっとやめろって言われてきたけど、今まで、サッカーをやり続けてきた。けど、改めて考えてみると、正直、自分でもわからなくなったんだ。みんな、普通に進学するなか、俺は、プロに行く。だから、みんなとは違う道を歩くことになる。それでいいのか、迷ったんだ。今回より大きな怪我をしたら、サッカーができなくなる可能性もあるし、親の言うことも、わかるっていうか、、」
僕は、藤澤君の思いを聞き続ける。
「いっそのこと、やめようかなって、、」
その顔が、とても辛そうだ。
「サッカーが嫌いになったの?」
「別に、嫌いになったわけじゃない。昔と変わらず好きだし、プロ行きは、嬉しい。けど、こんな中途半端な気持ちで、サッカーには向き合えない。」
横顔を見ると、まだサッカーをやりたいんだと思った。
サッカーをやって欲しい。好きなら、なおさら続けて欲しい。
けれど、迷っている藤澤君に、好きならやりなよ、なんてそんな軽々しいことは言えなかった。
こんな僕に何ができるんだろうか、、
何もできないんじゃないのか、、
僕は、藤澤君にそっと寄りかかった。
「サッカーをやっても、やらなくても、僕は、ずっと、そばにいるよ。」
サッカーをやっている藤澤君に恋をした。
その光景を思い出す。あの楽しそうな顔を。
本当は、やってほしい。
けれど、そんなことは今の僕には、言えないよ、、
「そっか、ありがとな。」
寄りかかったら、藤澤君の体温を感じ、痛みが伝わってくる。
こうしていれば、少しは、楽になってくれるのだろうか。
子供の声が遠くから聞こえてきた。何か試合をやっているようだ。
「試合か、」
「見に行ってみる?」
「そうだな、」
僕らは、声がする方へ行くと、少年サッカーの試合をやっていた。
しばらく試合を遠くから見ることにした。藤澤君の横顔を見たら、やっぱりサッカーをやりたいんだと思えた。
あぁ、やっぱりやりたいんだ、、
けど、その一歩が踏み出せないんだ、、
僕が、その背中を押してあげたい、、
それから、公園を散策し終え、駅に戻り、今日は、ここで別れることにした。
「いろいろ、聞いてくれて、ありがとな!」
「ううん。話してくれてありがとう。」
「じゃ、また学校で!」
「うん。バイバイ!」
藤澤君と別れ、僕は、どうしたら、サッカーをやるきっかけを作れるのかを考えていた。
わからない、、、
とりあえず、サッカーボールを買って帰った。
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