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7-6 秘密の特訓
藤澤君にサッカーをしてもらうために、秘密の特訓をし始めた。放課後、家に帰ると、この前、行った公園に行き、リフティングの練習を始めた。
これが、何の意味になるかはわからないけれど、もし、僕が楽しそうにサッカーをやったら、またやってくれるんじゃないのかな、、
僕には、これぐらいの考えしか出てこなかった。
学校では、東条君が毎日のように藤澤君にサッカーを誘っている。けれど、藤澤君は、決して応じない。しばらくして東条君は、誘うことをやめてしまい、その時の東条君の顔は、辛そうだった。
そんな中、体育の授業でまた、サッカーをする機会があり、藤澤君は、怪我を理由にサッカーをやらなかった。
本当は、やりたいはずなのに、、
あの顔は、絶対そうなんだ、、
試合が、始まった。
僕は、いつもボールが回ってきても、すぐに取られてしまうけれど、今回は、普段より取られることが少なくなった。
リフティングのおかげかな、、
ボールを取られなくなると、走ることができ、なんだか、とても楽しくて、気づくとシュートを決めていた。
サッカーって楽しいんだと感じる。
「やったな!」
武藤君が肩を組む。
「うん」
「愁君、うまくなった?」
優君に聞かれた。
「えーたまたまだよー」
藤澤君を見ると、その目は、一緒にやりたいという目をしている。
僕が上手になるともう一度、サッカーをやってくれるかな、、
それからしばらくして、藤澤君をあの公園に誘った。
僕は、覚悟を決めたんだ。
公園に行きあのベンチに座る。
「サッカーうまくなったな。」
「そうかなぁ、、」
「何かやったのか?」
「あのね、見て欲しいんだ!」
立ち上がり、リュックからサッカーボールを取り出した。
そして、リフティングを始める。
練習のかいがあって、何回か続く。
「山口、、、、」
何回目かでリフティングが失敗して、サッカーボールがベンチに座っている藤澤君の足元に転がった。そのボールを慣れた足で止める。
僕は、藤澤君をしっかり見つめた。
「藤澤君にサッカーをやって欲しい!」
風が吹き、木々がざわめく。
「俺は、、どうすればいいんだろうな、、、」
伏し目がちに呟いた。
藤澤君の前にしゃがんで手をつなぎ目を合わす。
「やろうよ!サッカーをやっている藤澤君が大好きなんだ!!」
僕は、覚悟を決めて言った。
やっぱり、藤澤君には、サッカーが似合ってるんだよ。
藤澤君からサッカーを取ったら、藤澤君ではなくなるんだよ。
両親がどう言っても、サッカーを奪うことはダメなんだ。
「そっか、」
藤澤君は、優しく微笑み、勢いよく立ち上がり、サッカーボールを蹴って、リフティングを始めた。
「こうすんだ!」
あぁ、藤澤君がサッカーをやっている。
嬉しい、、本当に、嬉しい、、
ボールが喜んでいる気がする。
僕は、その光景を見ながら泣いてしまった。
「どうした、?」
「嬉しくて、、、」
僕は、満面の笑みで答えた。
「そっか、、」
藤澤君は、また笑った。
そして、僕らは、原っぱに行って、飽きるまで何度も何度もボールを蹴り合いっこした。
気づくと、夕日が出ていた。
「帰るか!」
「うん。」
駅まで一緒に帰る。
「ありがとな。これで、覚悟が決まった。俺、プロに行くよ!」
藤澤君の横顔は、吹っ切れていた。
「うん、、うん、ずっと応援するよ!」
また、泣いてしまった。
「泣きすぎ。」
「ごめん、だけど、、、、本当に嬉しくて、、、」
突然、抱きしめられる。
「心配かけてごめんな。」
藤澤君の鼓動を感じる。今は、温かい思いが伝わってくる。
「ううん、、こんなのへっちゃらさ。だって、僕らは恋人同士なんだもん。」
僕は、笑顔で言った。
「だな。」
夕日を反射する雲が、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
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