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8-2 クリスマス

クリスマスを藤澤君と過ごすことが決まり、今まで以上に勉強に集中していた。 けれど、一つ迷っていることがある。 クリスマスプレゼントだ。 正直なところ、藤澤君をこんなにも好きなのに、何が好きなのか、まだよくわからない。サッカーとチーターが好きなのは、わかっているけど、、 やっぱり、プレゼントするなら、サッカーに関係するものがいいのかな、、 うーん、どうしよう、、 勉強を中断して、椅子の背もたれに寄りかかり、上を向いた。 「あぁ、どうしようかな、、」 「どうした?」 天井を見ていた僕の視界に夏兄が突然入ってきた。 「わっ!!!ビックリした!!もう、勝手に入ってこないでよー」 「わりぃーわりぃー何か、悩み事か?」 夏兄は、笑いながら聞いてくる。 「別に、何もないよー」 「勉強なら教えてやるぜ!」 夏兄は、こんな風だけど、僕よりも頭がいい。 実際、夏兄が行っている大学は、僕の頭では無理だ。 少しむかつく、、、 「大丈夫だよ!」 「じゃあ、何を悩んでいるんだ?」 「別に悩んでない!」 僕は、ムスっとして言った。 「ほら、兄ちゃんに言ってみ!」 夏兄は、ニヤニヤと笑っている。 まったく、、 「クリスマス、、、」 「クリスマスがどうした?」 「プレゼント、決まらなくて、、、」 「そっか、そっか、」 これは、完全にバカにしている顔だ。 「もういい!!出てってよーー」 椅子から立ち上がり、夏兄の背中を押した。 その時、足首に付けてあるミサンガを見つけ、押す手が止まる。 「どうした?追い出さねーのか?」 「いや、、それって、ミサンガだっけ?」 「あぁ、そうだな。そうだ!ミサンガにしろよ!サッカーやってんだろ?喜ぶと思うぜ!」 「うん、そうする!!」 こうして、ミサンガをプレゼントすることにした。 それから、ミサンガのことを調べ、願いをかけること、色に意味があることなどを知った。プレゼントするなら、願いを込めたいから、絶対に手作りにしよう。そして、勉強の合間に、糸を買いに行き、少しずつ作ることにした。 ちょうどミサンガを作り終えたころ、クリスマスがやってきた。 いつもの待ち合わせ場所に着くと、藤澤君がいた。 「ごめんね。待った?」 「全然。」 「よかったー」 冬休みに入り、そんなに経ってないのに、久しぶりに藤澤君の顔を見た気がした。やっぱりカッコいいなと思う。 「どうした?」 「ううん。久しぶりに会ったと思って。」 僕は、無意識にはにかんだ。 「そんなに経ってないだろー」 藤澤君は、笑った。 「じゃ、行くか!」 「うん!」 久しぶりに二人で歩くと、それだけで幸せだと感じる。 僕は、また藤澤君の顔を見てしまう。 きっと、藤澤君は、僕が見ていることに気づいている。 けれど、何も言わずに、そっと手を握ってくれた。 その手が冬の寒さをどこかに追いやり、温もりに包まれる。 公園に着く頃には、辺りが暗くなり始めていた。 久しぶりに来た公園は、綺麗な光に溢れ、その光は、一つ一つが宝石のように輝き、幻想的な雰囲気を醸し出していた。 「綺麗、、」 僕は、この圧巻した風景に心を打たれた。 「そうだなー」 この世界に浸りながら、しばらく歩き続けると、大きなクリスマスツリーが飾られていた。 木々が歌い、僕らを祝福している気がする。 そして、木々に囲まれたあのベンチに座ることにした。 温かい光に包まれながら、僕らは手を繋いで座る。 ここに座ると、違うところにいる気がした。 そして、プレゼントを渡すことにした。 「これ、クリスマスプレゼント。」 僕は、ミサンガが入ったプレゼントボックスを差し出す。 「もらって、いいのか?」 「うん、、」 「開けていい?」 僕は、頷いた。 「ミサンガかー」 「これ、僕が作ったんだ、、あんまり上手じゃないけど、ごめんね、、」 「手作りか!すごいな、大事にする!ありがとな!!」 このミサンガには、プロでの活躍とずっと一緒にいたいという願いを込めて作った。その願いに合わせて、色は、赤と青と水糸の三色にした。 「俺からも。これ。」 藤澤君は、照れながら一つの袋を渡してくれた。 「開けていい?」 「あぁ、」 「お守りだ!!」 「これな、サッカーの試合前に行く神社があって、そこのお守りなんだ。けっこう、効くんだ!」 「ほんと?嬉しい!!」 僕は、お守りを胸にあてて、大切に握りしめた。 「試験、頑張れよ!」 「うん!これで、どんな試験でも受かる気がするよ!」 「ちゃんと、勉強もしろよ!」 「わかってるよー」 二人で笑い合った。 まさかプレゼントがもらえるなんて。 僕は、藤澤君とそばにいられるだけで十分なのに、こんなに幸せになってもいいんだろうか。 本当に幸せだ。 「なぁ、そろそろ下の名前で呼んでもいいか?いつまでも苗字で呼ぶのも変かなってー」 藤澤君は、目の前に広がる光を見つめながら言った。 「そう、、だね、、」 「じゃあ、、愁、、」 その声が何度も僕の頭でこだまする。 恥ずかして、照れてしまう。 「僕は、、呼び捨てにできないから、、恭、、君って呼ぶね、、、」 「あぁ、」 初めて、名前で呼んだ。 その名前が、僕の胸を優しく締め付ける。 今よりも藤澤君に近づけた気がした。 こうして、幸福に包まれながら、初めてのクリスマスを終えた。

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