83 / 91

8-7 願いの終わり

木々がざわめき始め、僕を見つめている気がする。 どこからか歌が聞こえてきた。優しくて、淡い歌。 そして、葉っぱが僕に優しく降り注ぐ。まるで、僕を包み込むように。 僕は、意識を手放した。 気づくと、綺麗なお花畑の上に一人で立っていた。 そして、そこには、大きな木があり、すぐに、『願いの木』だとわかった。 僕は、かすかな記憶を思い出す。ここで願った自分を。 普通に恋愛がしたいと、、 願いが叶ったんだ。 元の世界へ戻ってしまうの、、、 僕の目から涙が溢れ出し、とまらない、、 どうか、お願い、このままで、、 僕は、恭君といたいんだ、、、 これからもずっと、ずっと恭君のそばにいたいんだ、、、 気づくと、お花畑がいつしか、葉っぱで作られた階段に変わっていた。 自分の意思とは関係なく、歩き始める。 一歩、そして、また一歩。 葉っぱの階段を一段一段踏むにつれて、今までの思い出が消え、そこに代わりの思い出が入り込んでくる。 これは?願ったとき?僕は、『願いの木』に願っている。そして、病室で目が覚める。清父さん、咲父さん、夏兄、皐兄に見守られいる。 パリン。。。ガラスの割れる音がする。僕の中で何かが消える。 ここも?願ったとき?僕は、公園の木の前で寝ている。 「あれ、、、夢見てたみたい、、」 家に帰ると、お父さん、お母さん、夏姉、そして、珍しく皐姉もいた。 家族で楽しく談笑している。 咲父さん、、夏兄、、皐兄、、僕は、泣きながら呟いた。 消えゆく記憶、、あれ、咲父さん、夏兄、皐兄って誰だっけ、、、 僕には、お母さんとお姉ちゃんしかいないのに、、、 あぁ、涙が止まらない、、なんでだろう、、、 ここは?学校?僕は、優君、凜君といつものように談笑している。 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここも?学校?僕は、優ちゃんと凜ちゃんといつものように談笑している。 優君、凛君、、、、、、僕は、呟いた。 消えてしまう記憶、、、あれ、優君、凛君って誰だろう、、 そんな友達はいないよ、、優ちゃんと凜ちゃんは、いるけど、、 涙が止まらない、、、、 ここは?海旅行?八人で楽しくバーベキューをしている。僕、響君、武藤君、重岡君、恭君、東条君、優君、凛君で最後にみんなで花火をする。僕と恭君と二人で幸せそうに線香花火をする。 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここも?海旅行?八人で楽しくバーベキューをしている。僕、響君、武藤君、重岡君、恭君、東条君、優ちゃん、凛ちゃん、みんなで花火をする。最後は、線香花火を全員でする。僕は、線香花火をしている恭君の横顔を遠くから寂しく眺めている。 思い出が消えている、、大切にした何かが、無くなっている、、、 けれど、僕には、止めることができない、、、 ここは?登山?五人で登山をしている。僕、武藤君、恭君、東条君、凛君だ。ビバークすることになり、恭君が僕を後ろから抱きしめてくれて、手を握ってくれる。温かくて、優しくて、、 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここも?登山?五人で登山をしている。僕、武藤君、恭君、東条君、凜ちゃん。ビバークをして、サブリーダーという責任感から恭君が残ってくれる。 「寒いから、後ろから抱きしめさせてもらうな。」 「あっ、うん、、」 嬉しいけれど、これは、生きるためにやっていることなんだ。 思い出が消えゆく、、、大切なモノが、無くなり続けている、、、 ここは?体育祭?武藤君が僕に告白をしている。そして、僕と武藤君と恭君が、騎馬戦に出ることになった。辛いけれど、今では、いい思い出になっている、、 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここは?体育祭?出場種目を決めるとき、くじ引きの結果、騎馬戦に出ることになる。僕が騎馬戦なんてありえないと思ったけど、なんとか頑張っている。 武藤君の思い、恭君の思いが消えている、、、、 ここは?文化祭?「願い」を響君の伴奏で歌う。そして恭君から告白されて、、一緒に踊ったダンスが楽しくて、、 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここも?文化祭?「願い」を響君の伴奏で歌う。 「その曲って誰に歌ったの?」 優ちゃんと凜ちゃんに聞かれる。 「えっと、、昔、好きだった人かな、、」 僕は嘘をつく。告白されるわけでもなく、するわけでもなくて、、ダンスは、男女一組で踊る。 あぁ、消える、、消えている、、 どうしようもなく悲しい、、、、 ここは?動物園?恭君と初めてのデート。お弁当を食べて、ハート模様のポニーを見て、チーターを見る。楽しい時間を過ごしている。 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここも?動物園?八人で動物園へ行く。僕、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君、優ちゃん、凜ちゃんだ。みんなで動物を見ながら歩く。藤澤君とは、どこまで行っても友達のまま、、、 やめて、、、やめて、、、、、 消さないでよ、、、 ここは?公園?僕はリフティングをしている。恭君にサッカーをやって欲しいと言っている。 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここも?公園?東条君がリフティングをしている。東条君が恭君にサッカーを進めている。僕は、何もできず悔しそうに遠くから眺めている。 ただただ、泣くことしかできない、、、、 ここは?クリスマスイブ?恭君と初めて過ごすクリスマスイブ。光と愛に包まれたクリスマスイブ。 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここも?クリスマスイブ?八人でクリスマスパーティーを楽しんでいる。僕、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君、優ちゃん、凜ちゃんだ。 もう、いやだよ、、、 ここは?さっき?恭君に結婚しようと言われ、最高の愛を感じている。 パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。 ここも?さっき?みんな揃って学校前で記念撮影をしている。 「藤澤がプロで活躍したら、みんなでサッカー見に行こうぜ!」 武藤君が僕らに言い、行こうと盛り上がっている。 「じゃ、またな!」 恭君が去っていく。 もう、、、、、、やめて、、、、 これ以上、無くしたら、僕には、何もない、、、 無慈悲にも僕の記憶は、全て塗り替わってしまった。 そして、光に包まれる。 「どうしたの?大丈夫?」 横にいる響君が心配している。僕は、その場で泣き崩れしゃがみこんでしまう。響君は、黙って、僕の肩をさすってくれている。 涙が止まらない、止まらないんだ、、 ずっと、泣き続け、気づくと、夜になった。 響君はずっとそばにいてくれた。 「ご、めん、、、」 僕は、元気なく言った。 「落ち着いた?何があったの?」 心配そうなな顔で見つめる響君。 「なん、、だ、、、ろ、、う、、」 僕にもわからなかった。 大きなモノを失ったけれど、それが何か僕には、もうわからない。 ただただ心に穴が開いたようで、涙だけが流れる。 「帰ろう、、」 響君が優しく僕に話しかける。 今、卒業式の帰り道だった。 その帰り道に、突然泣き出し、その場でしゃがみこんでしまっていたのだ。 「うん、、、、」 響君に支えられながら帰る。 足が重くて、どうにかして歩くことができた。 響君は、家まで送ってくれた。 「何かあったら、すぐに連絡してね。」 最後まで心配してくれていた。 「あり、、、が、とう、、、」 家に着くと、 「おかえり、遅かったわね。」 お母さんが出迎えてくれる。 「咲父さん、、、」 また涙が出てきた。 「どうしたの?」 お母さんは心配している。 「どうしたの?」 夏姉が出てきた。 「夏兄、、、」 大粒の涙が落ちる。 「みんな、玄関でどうしたの?」 皐姉が心配している。 「皐兄、、、」 僕は、その場で泣き崩れてしまった。 意味もわからず出てくる言葉。 その言葉が、僕にとって、大切な気がする。 けれど、それが、何かわかんない、、 ただただ悲しかった。 それから、家族みんなで心配してくれて、早めにベッドに入った。 これは夢?いつもの八人で海を満喫している。僕、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君、優君、凛君。みんな楽しそうだ。場面は変わり、恭君と楽しそうに話している僕。また、場面は変わり、夏兄と皐兄と僕と咲父さんと清父さんで談笑している。 起きると、枕は涙で濡れていた。 恭君、、、、 あれ、何で僕は、藤澤君のことを下の名前で呼んでいるんだろう、、 なんでだろう、、 ただ、疑問だけが虚しく残った。 しばらく、こんな夢を何度か見た。 急に女の人に違和感を持つようになったけれど、徐々にその違和感も消えた。それと同時に、その夢を見ることもなくなった。 けれど、僕の心には、大きな穴が開いたままで空虚感だけが残り続けていた。 そして、大学生活が始まった。

ともだちにシェアしよう!