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8-7 願いの終わり
木々がざわめき始め、僕を見つめている気がする。
どこからか歌が聞こえてきた。優しくて、淡い歌。
そして、葉っぱが僕に優しく降り注ぐ。まるで、僕を包み込むように。
僕は、意識を手放した。
気づくと、綺麗なお花畑の上に一人で立っていた。
そして、そこには、大きな木があり、すぐに、『願いの木』だとわかった。
僕は、かすかな記憶を思い出す。ここで願った自分を。
普通に恋愛がしたいと、、
願いが叶ったんだ。
元の世界へ戻ってしまうの、、、
僕の目から涙が溢れ出し、とまらない、、
どうか、お願い、このままで、、
僕は、恭君といたいんだ、、、
これからもずっと、ずっと恭君のそばにいたいんだ、、、
気づくと、お花畑がいつしか、葉っぱで作られた階段に変わっていた。
自分の意思とは関係なく、歩き始める。
一歩、そして、また一歩。
葉っぱの階段を一段一段踏むにつれて、今までの思い出が消え、そこに代わりの思い出が入り込んでくる。
これは?願ったとき?僕は、『願いの木』に願っている。そして、病室で目が覚める。清父さん、咲父さん、夏兄、皐兄に見守られいる。
パリン。。。ガラスの割れる音がする。僕の中で何かが消える。
ここも?願ったとき?僕は、公園の木の前で寝ている。
「あれ、、、夢見てたみたい、、」
家に帰ると、お父さん、お母さん、夏姉、そして、珍しく皐姉もいた。
家族で楽しく談笑している。
咲父さん、、夏兄、、皐兄、、僕は、泣きながら呟いた。
消えゆく記憶、、あれ、咲父さん、夏兄、皐兄って誰だっけ、、、
僕には、お母さんとお姉ちゃんしかいないのに、、、
あぁ、涙が止まらない、、なんでだろう、、、
ここは?学校?僕は、優君、凜君といつものように談笑している。
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここも?学校?僕は、優ちゃんと凜ちゃんといつものように談笑している。
優君、凛君、、、、、、僕は、呟いた。
消えてしまう記憶、、、あれ、優君、凛君って誰だろう、、
そんな友達はいないよ、、優ちゃんと凜ちゃんは、いるけど、、
涙が止まらない、、、、
ここは?海旅行?八人で楽しくバーベキューをしている。僕、響君、武藤君、重岡君、恭君、東条君、優君、凛君で最後にみんなで花火をする。僕と恭君と二人で幸せそうに線香花火をする。
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここも?海旅行?八人で楽しくバーベキューをしている。僕、響君、武藤君、重岡君、恭君、東条君、優ちゃん、凛ちゃん、みんなで花火をする。最後は、線香花火を全員でする。僕は、線香花火をしている恭君の横顔を遠くから寂しく眺めている。
思い出が消えている、、大切にした何かが、無くなっている、、、
けれど、僕には、止めることができない、、、
ここは?登山?五人で登山をしている。僕、武藤君、恭君、東条君、凛君だ。ビバークすることになり、恭君が僕を後ろから抱きしめてくれて、手を握ってくれる。温かくて、優しくて、、
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここも?登山?五人で登山をしている。僕、武藤君、恭君、東条君、凜ちゃん。ビバークをして、サブリーダーという責任感から恭君が残ってくれる。
「寒いから、後ろから抱きしめさせてもらうな。」
「あっ、うん、、」
嬉しいけれど、これは、生きるためにやっていることなんだ。
思い出が消えゆく、、、大切なモノが、無くなり続けている、、、
ここは?体育祭?武藤君が僕に告白をしている。そして、僕と武藤君と恭君が、騎馬戦に出ることになった。辛いけれど、今では、いい思い出になっている、、
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここは?体育祭?出場種目を決めるとき、くじ引きの結果、騎馬戦に出ることになる。僕が騎馬戦なんてありえないと思ったけど、なんとか頑張っている。
武藤君の思い、恭君の思いが消えている、、、、
ここは?文化祭?「願い」を響君の伴奏で歌う。そして恭君から告白されて、、一緒に踊ったダンスが楽しくて、、
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここも?文化祭?「願い」を響君の伴奏で歌う。
「その曲って誰に歌ったの?」
優ちゃんと凜ちゃんに聞かれる。
「えっと、、昔、好きだった人かな、、」
僕は嘘をつく。告白されるわけでもなく、するわけでもなくて、、ダンスは、男女一組で踊る。
あぁ、消える、、消えている、、
どうしようもなく悲しい、、、、
ここは?動物園?恭君と初めてのデート。お弁当を食べて、ハート模様のポニーを見て、チーターを見る。楽しい時間を過ごしている。
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここも?動物園?八人で動物園へ行く。僕、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君、優ちゃん、凜ちゃんだ。みんなで動物を見ながら歩く。藤澤君とは、どこまで行っても友達のまま、、、
やめて、、、やめて、、、、、
消さないでよ、、、
ここは?公園?僕はリフティングをしている。恭君にサッカーをやって欲しいと言っている。
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここも?公園?東条君がリフティングをしている。東条君が恭君にサッカーを進めている。僕は、何もできず悔しそうに遠くから眺めている。
ただただ、泣くことしかできない、、、、
ここは?クリスマスイブ?恭君と初めて過ごすクリスマスイブ。光と愛に包まれたクリスマスイブ。
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここも?クリスマスイブ?八人でクリスマスパーティーを楽しんでいる。僕、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君、優ちゃん、凜ちゃんだ。
もう、いやだよ、、、
ここは?さっき?恭君に結婚しようと言われ、最高の愛を感じている。
パリン。。。またガラスの割れる音がする。僕の中でまた何かが消える。
ここも?さっき?みんな揃って学校前で記念撮影をしている。
「藤澤がプロで活躍したら、みんなでサッカー見に行こうぜ!」
武藤君が僕らに言い、行こうと盛り上がっている。
「じゃ、またな!」
恭君が去っていく。
もう、、、、、、やめて、、、、
これ以上、無くしたら、僕には、何もない、、、
無慈悲にも僕の記憶は、全て塗り替わってしまった。
そして、光に包まれる。
「どうしたの?大丈夫?」
横にいる響君が心配している。僕は、その場で泣き崩れしゃがみこんでしまう。響君は、黙って、僕の肩をさすってくれている。
涙が止まらない、止まらないんだ、、
ずっと、泣き続け、気づくと、夜になった。
響君はずっとそばにいてくれた。
「ご、めん、、、」
僕は、元気なく言った。
「落ち着いた?何があったの?」
心配そうなな顔で見つめる響君。
「なん、、だ、、、ろ、、う、、」
僕にもわからなかった。
大きなモノを失ったけれど、それが何か僕には、もうわからない。
ただただ心に穴が開いたようで、涙だけが流れる。
「帰ろう、、」
響君が優しく僕に話しかける。
今、卒業式の帰り道だった。
その帰り道に、突然泣き出し、その場でしゃがみこんでしまっていたのだ。
「うん、、、、」
響君に支えられながら帰る。
足が重くて、どうにかして歩くことができた。
響君は、家まで送ってくれた。
「何かあったら、すぐに連絡してね。」
最後まで心配してくれていた。
「あり、、、が、とう、、、」
家に着くと、
「おかえり、遅かったわね。」
お母さんが出迎えてくれる。
「咲父さん、、、」
また涙が出てきた。
「どうしたの?」
お母さんは心配している。
「どうしたの?」
夏姉が出てきた。
「夏兄、、、」
大粒の涙が落ちる。
「みんな、玄関でどうしたの?」
皐姉が心配している。
「皐兄、、、」
僕は、その場で泣き崩れてしまった。
意味もわからず出てくる言葉。
その言葉が、僕にとって、大切な気がする。
けれど、それが、何かわかんない、、
ただただ悲しかった。
それから、家族みんなで心配してくれて、早めにベッドに入った。
これは夢?いつもの八人で海を満喫している。僕、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君、優君、凛君。みんな楽しそうだ。場面は変わり、恭君と楽しそうに話している僕。また、場面は変わり、夏兄と皐兄と僕と咲父さんと清父さんで談笑している。
起きると、枕は涙で濡れていた。
恭君、、、、
あれ、何で僕は、藤澤君のことを下の名前で呼んでいるんだろう、、
なんでだろう、、
ただ、疑問だけが虚しく残った。
しばらく、こんな夢を何度か見た。
急に女の人に違和感を持つようになったけれど、徐々にその違和感も消えた。それと同時に、その夢を見ることもなくなった。
けれど、僕の心には、大きな穴が開いたままで空虚感だけが残り続けていた。
そして、大学生活が始まった。
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