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9-2 成人式

海旅行が終わり、定期演奏会や課題やアルバイトに追われながらも、大学生活を満喫していた。 そして、季節は流れ、大学二年生となった。 サークルでは、新一年生を迎え、授業は、専門的になり、今まで以上に関心を持って取り組むようにした。 そして、また夏休みがやってきた。 最近では、めったに鳴らなくなったグループリンク(海メン)が点滅する。 (凛ちゃん)また、海行きたい人? 凛ちゃんからの誘いだ! (武藤君)わりぃー!バイトで忙しくて無理! (重岡君)私も厳しいです。 重岡君は、今年、無事に志望校に合格した。 頭のいい大学だから、大変なのかな、、 (優ちゃん)ウチも、絵にかかりっきりだから、ごめんねぇ。 (東条君)俺も無理!!いろいろ忙しいよー。ごめん!! そっかぁ、、みんなやっぱり忙しいんだ、、 僕は、行けるんだけど、仕方ないか、、 (僕)僕は、行けるけど、みんな、忙しそうなら厳しいかもね、、 (響君)ごめん!!僕もトランペットで忙しくて、行けそうにないかも、、 響君も忙しんだ、、、 音大も大変だ、、 (藤澤君)俺も海外だしな、、 藤澤君は、今海外にいる。 今年から、海外の有名チームに移籍したんだ。 もうテレビ越しにしか会えないのかな、、、 (凜ちゃん)みんな今年は、難しそうだねーまた、来年だね!それぞれ頑張って!! こうして、今年の海旅行は無くなった。 大学も違うし、みんなそれぞれ自分の道を歩み始めている。 それは、寂しいことだけど、嬉しいことだと思った。 僕も、前を向いて歩こう。 今できることを一生懸命にやろう。 そう強く思う。 それからの日々も忙しく送っていると、去年海へ行った日が近づいてきた。 みんなとは、行けないけれど、一人でも行こうと思い、ある晴れた日、電車に飛び乗った。 電車は、空いていて、座って車窓から移りゆく景色を眺める。 次第に海が見えてきて、しばらくすると、目的地に着いた。 そこには、もちろん、誰もいなくて、一人で海辺を歩き始める。 海風が、心地いい、、 歩き続けると、別荘が見えた。 みんなと遊んだ海の浜辺に座り、黙って海風に当たりながら海を眺めた。 心地よくて目を瞑った。 そこには、男性八人が見えた。 僕、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君の六人と優ちゃんと凛ちゃんに似た二人。 僕らは、みんなでふざけて海で遊んでいる。 それは、とても楽しそうな光景だった。 いつの間にか、夕日が出ていて、僕は、眠ってしまっていた。 さっきの夢なのかな、、 気づくと、目から涙が溢れていた。 苦しい、、、 なぜ、こんなにも胸が締め付けられるのかがわからない、、 ただただ苦しかった、、 しばらくして、僕は、この海を後にした。 そして、また、授業、サークル、バイトに追われる日々が続き、季節は流れ、年末となった。 今年最後のバイトが終わり、ふとあの公園に立ち寄ってみたくなった。 どうして公園に行きたくなったのかはわからないけれど、なぜか行きたかった。 公園に着くと、そこは眩い光に溢れていた。 クリスマスは終わっていたけれど、イルミネーションは、まだ続けているみたいだ。 その光は、とても綺麗で、うっとりする。 ゆっくりと公園を散策すると、木の中に囲まれた一つのベンチを見つけた。 そこに、誰かが座っているみたいだ。 藤澤君だった。 ふと目が合った。 「山口?」 「ど、うして?」 「いや、俺も聞きたい、」 藤澤君も、驚いていた。 「そ、そうだよね、、僕は、バイト帰りで、なんとなく来たくなったっていうか、、」 照れ笑いしながら言った。 「そっか。俺も、なんとなく、」 藤澤君も少しだけ笑っていた。 「隣に座ってもいい?」 「あぁ、」 藤澤君の隣に座り、自分の心が高鳴るのがわかる。 あぁ、緊張する、、 辺りは、綺麗な光に包まれている。 「海外にいるんじゃなかったの?」 「年末だから、帰ってきたんだ。」 「そうだったんだ。最近、サッカーは、どう?」 「順調だな。」 手にはミサンガが見えた。 まだつけてくれてたんだ、、 「よかったー」 「山口は、どう?」 「僕も順調だよ、、」 しばらく沈黙が続く。 僕らは、この綺麗な世界に浸っていた。 あぁ、、告白したいな、、、、 「そろそろ、行くわ!」 藤澤君は立ち上がった。 「あっ、、」 「どうした?」 「いや、、、何でも、、ない、、、サッカー頑張ってね!応援してるから!」 「おう!」 言えなかった、、、、 言えるわけないんだ、、、 去って行く藤澤君の後ろ姿を、その場で眺めることしかできなかった。 そして、藤澤君が見えなくなると、堰を切ったように涙が溢れ出す。 僕は、その場で気のすむまで泣き続けた。 いつしか年も明け、成人式の日となった。 みんな帰省するみたいで、当日会場で会う約束だ。 響君とは、いつもの所で待ち合わせをして、一緒に行くことにした。 優ちゃんは、準備で忙しいらしくて、現地で待ち合わせにしている。 スーツを着て、待ち合わせ場所へ向かうと、スーツ姿の響君がいた。 僕は、響君に駆け寄る。 「久しぶり!元気だった?スーツ似合ってるね!」 「愁君こそ!」 「最近、どう?」 「トランペットが忙しくて、少し大変かなー」 響君は苦笑いした。 それから話しながら、電車で移動し、会場へ向かう。 会場に着くと、着物や袴やスーツ姿の人がたくさんいた。 「多いね、、、優ちゃん、見つかるかな?」 「少し、回ってみようか。」 「そうだね。」 しばらく歩き続けると、優ちゃんらしき人がいた。 その隣には、重岡君と武藤君がいる。 「優ちゃん?わからなかった!すごく可愛いよ!」 着物を着て、さらに可愛くなってて、すぐにわからなかった。 「そうかなぁ、、」 優ちゃんは、照れ笑いをする。 「久しぶりだな!」 武藤君は、袴姿で、堂々としている。 「お久しぶりです。」 重岡君は、スーツ姿だ。 「久しぶり!その袴似合ってるね!」 「だろ!」 武藤君は、自慢げに袴を見せてくれる。 「重岡君も元気そうだね!」 「山口君も元気そうでよかったです。」 しばらく談笑していると、 「お待たせ!」 綺麗な着物姿の凜ちゃんが来た。 いつもの凜ちゃんとは、雰囲気が違う。 なんだか、武藤君が、照れているような気がする。 「久しぶり!凜ちゃん、すごい綺麗だね!」 「ありがとう!勇は、どう思うの?」 「まぁまぁじゃねぇ、、、」 「素直じゃないねー」 凜ちゃんが、武藤君をからかうように笑った。 「なっ、、、」 武藤君が慌てている。 どこかこの二人がいつもと違う感じがする、、 よそよそしいと言うか、、 何と言うか、、何かあったのかな、、 「おーい!」 東条君が手を振りながら駆けてきた。東条君も袴姿だ。 「おっ、瞬も袴か!同じだな!」 武藤君が言う。 「藤澤君と一緒じゃないんですねー」 重岡君が尋ねる。 「遅れるみたいー寝坊かもね!」 遅れるんだ、、 早く会いたいな、、 しかし、いくら待っても、藤澤君は来なかった。 とうとう会場に入る時刻となる。 武藤君と凜ちゃんが、言った。 「しゃーない!先に行くか!」 「そうね。あとから来るでしょー」 僕は、なんだか不安だったけど、大勢の人が会場に入って行くので、みんなと一緒に入ることにした。 藤澤君、大丈夫なのかな、、 何かあったんじゃないのかな、、 不安だ、、、 時間が経つにつれて、どんどん不安になる。 そして、式典の時刻となった。 時間になっても、藤澤君はいつまでたっても来なかった。 式典はすぐに終わり、会場の外に出た時、東条君が真っ青な顔をしている。 「恭くん、交通事故にあったみたい、、、」 嘘だ、、、、、、 東条君は、藤澤君のお兄さんからリンクで連絡が来たと言った。 「すぐに病院に行こう!!病院どこ?」 僕は、慌てて言った。 会いたい、 今すぐ、会いたいんだ、、 東条君は、うろたえながらも病院名を教えてくれた。 僕は、すぐに走り出し、タクシーを止める。 「ちょっと、愁君!!」 響君が追いかけくる。 「アタシたちも行こう!」 凜ちゃんも走り出す。 「こんな大勢で押し掛けたら迷惑じゃ、、」 重岡君が冷静に心配していると、武藤君が怒鳴る。 「そんなの関係ねぇ!あいつは、俺らのダチだ!!行くぞ!!!おい、瞬も行くぞ!」 その場で呆然としている東条君にも言う。 「う、、うん!」 武藤君も走り出すと、東条君も続く。 「玄さん、行こう!」 優ちゃんが、重岡君の手を握り、走り出す。 「そうですね!行きましょう!」 こうして、僕らは、それぞれ病院へと向かった。 病院に着くと、一人の女性が泣き崩れ、その女性を男性が支えていた。 そして、もう一人若い男性が静かに立っていた。 「あの、藤澤君は?」 僕は、恐る恐るその男性に聞いた。 誰も、何も答えなかった。 その雰囲気で僕は察した。 藤澤君が、、死んだ、、 僕は、その場で泣き崩れた。 今までに感じたことのない喪失感が襲う。 視界がぼやけ、立つことさえできない。 何も見えない、、 何もわからない、、 途方もない暗闇が僕を襲う。 横で響君が、ずっと肩をさすってくれていた。 しばらくして、みんなが到着する。 この場の雰囲気を察し、全員が理解した。 僕は、ただただ泣き崩れていた。 とてつもない大きなモノを失った、、 絶望と喪失感が僕を暗闇へと引きずり込んだ。

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