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9-3 喪失感

テレビ報道で、藤澤君の死が報道された。 未来のサッカー界を背負う選手を失ったことに、多くの人々は悲しんだ。 あの事故以来、僕は、部屋に閉じこもったままだ。 何もやる気が起きず、ずっと暗闇の中をさまよっている。 藤澤君を失って、あまりにも大きな喪失感を感じた。 その喪失感は、単純に好きな人を失ったというだけでは説明がつかないほど大きなものだった。 僕の心をナイフでえぐり、ズタズタにし、立ち直れないものにしていた。 死にたい。もう生きる意味もない。 どうせ、やりたいこともないし、生きていてもいいことなんかもうないんだ。それなら、いっそのこと、終わりにしたい。 死んだら、恭君に会えるかな、、 無意識に発した言葉。 恭君、、 その言葉が、なぜだか僕を優しく包み込む。 涙は枯れたはずなのに、何度でも流れ、溢れて、止まらない。 ただただ、どうしようもなく悲しかった。 それから、しばらく、毎日壁だけを見て過ごした。 ただただ、ボッーと壁だけを見ていた。 リンクが何度も点灯する。それが鬱陶しく感じて、携帯の電源を切った。 何もやる気が起きない。 僕は、壊れてしまったんだ。 壊れたロボットは、ゴミ箱行きだ。 僕は、自分を処分しないと、、、 やっと決めた 死んだら、恭君に会えるかもしれない。 たとえ会えなくても、もう、生きていけない。 恭君がいない世界で、生きることなんでできないんだ。 カッターナイフを手にし、手首を切ろうとした時 トントン ドアが鳴った。 そして、誰かが部屋に入ってきた。 響君だった。 響君は、僕がしようとしていたことにすぐに気づき、カッターナイフを取り上げて僕に言った。 「やめなよ!愁君!」 響君は泣いていた。 「もう、生きていたくないんだ!!ほっといてよ!!」 僕は、響君に力強く抱きしめられた。 「僕は、愁君に生きていて欲しいんだ。」 「、、辛いんだ、、、もう死にたいんだよ、、、」 僕の目から涙が溢れ出る。 「その苦しみを僕にも分けてよ、一緒に、生きよう。」 僕は、響君の胸に抱かれ、ただただ泣いていた。 それから、響君は毎日、来てくれた。 ただぞばにいてくれて、ずっと僕の話を聞いてくれた。 ある日、僕は、響君にポツリと言った。 「藤澤君のことが好きだったんだ、、」 「知ってた、」 響君は全てを知っていたんだ、、 あの歌を藤澤君に対して歌ったことも、、 「そっか、、知ってたんだ、、」 「愁君が誰を思っていても、僕はそばにいるよ。」 「あ、りがと、、う。」 響君の優しい言葉にまた涙が出てきた。 僕の周りには、こんなにも僕のことを思ってくれている人がいる。 少しだけ前に進もうと思った。 それから、ほんの少しずつ、立ち直っていった。 けれど、心の中に大きく空いた穴は、決して塞がることはなかった。 僕は、藤澤君を失って以来、よくあの公園に行くようになった。 あのベンチに座ると、なぜだか藤澤君を感じることができ、温かい気持ちが僕の中に流れ、優しく包み込んでくれるような気がするんだ、、 知らず知らずに季節は流れる。 藤澤君の死から、グループリンクは点灯しなくなり、夏が来ても、みんなで集まることはなくなってしまった。 ただただ意味もなく時だけが進んでいく。 どれほど、時が流れても、僕の心は空っぽのままだった。 そして、就職活動が始まり、自分のやりたいことを見つけようとしたけど、何も見つからず、そのまま大学を卒業した。

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