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9-4 告白

大学を卒業してすぐ、響君が帰省するから会おうと言われたので、いつもの待ち合わせ場所で会う約束をした。 会う日になり、待ち合わせ場所に着くと響君がいた。 「久しぶり!」 「久しぶり、、」 久しぶりに響君の顔を見た。 「ちゃんと、ご飯食べてる?」 「食べてるよ、、、」 僕は、少しだけ笑った。 「じゃ、行こうか!」 響君が元気よく言った。 今日は、新しくできた水族館に行く予定だ 。 電車に乗り、しばらくすると、すぐに最寄り駅に着いた。駅構内には、水族館へ歓迎するような広告がある。駅を出て、しばらくすると、すぐに水族館が見えてきた。 「けっこう、人多いね、」 「最近、オープンしたからね!行こう!」 響君は、楽しそうに僕を誘った。 水族館の中へ入ると、全面ガラス張りのトンネルがあり、たくさんの魚たちが泳いでいる。 僕らは、その中を通る。 「綺麗だね、、」 ただただ、その光景が綺麗だった。 魚たちに囲まれ、まるで海中にいるような気がする。 よく見ると、魚たちがダンスをしているように見え、幻想的な光景だ。 「あっ、ショーがあるよ!見に行く?」 「そうだね、、」 響君に誘われままショーを見た。 イルカが飛んだり、トドが絵を描いたり、終始楽しいショーだった。 響君と一緒にいると、少しずつ元気が出てきた。 ふと響君の横顔を見ると、どこか思い悩んでいるように感じた。 「どうかした?」 「えっ、、いや。」 響君は、明らかに慌てているようだ。 「何かあるならいつでも言ってね、、」 「わかった!」 響君には、たくさん助けられた。 もし、こんな僕でも、助けることができるなら何でもしてあげたい。 それから、併設されているレストランで昼食を食べ、その後、しばらく水族館を見て回り、帰ることにした。電車に乗り、いつもの待ち合わせ場所に着く。 「今日は、楽しかった。ありがとね、、」 僕は、笑顔で響君に言った。 「僕も楽しかったよ。あのさ、、もう少しだけ付き合ってくれる?」 「うん、、わかった、、」 やっぱり何か悩んでいるようだ。 僕らは、なんとなく学校の方へ向かって歩き始めた。 この道は、長い間、来てなかった。 「懐かしいね、この道。高校時代を思い出すよ。いつも、響君と帰ってたんもんね、、」 あの時は、楽しかったとしみじみと思う。 「高校卒業してからもう4年が経つんだね。早いねー」 「いつの間にか大学も卒業しちゃったし、、」 「愁君は、これからどうするの?」 「大学生になって始めたカフェのバイトを続けようと思うんだ。個人店なんだけど、そこのマスターがいい人で、いつまでいてもいいよって言ってくれたんだ、、」 「いい人だね。」 「響君は、どうするの?」 「僕は、海外に行くつもり、、、」 「海外か、、遠いね、、」 響君も離れていくんだ、、 寂しいな、、 気づくと、夕日が出ていた。 突然、響君が立ち止まる。 「どうしたの?」 響君は、僕を真剣に見つめた。 「愁君のことが好きだ。」 その言葉の意味がすぐには理解できなかった。 しばらくして、やっとその意味を理解した。 「僕は、、」 響君の顔を見ることができず、俯いてしまった。 「愁君、、顔をあげて。わかってるんだ。愁君が藤澤君のことをまだ忘れられないことも。ただ、どうしてもこの思いを伝えたかった。海外に行ったら、なかなか日本に帰ることもできない。もしかすると、ずっと海外で暮らすようになるかもしれない。だから、愁君に伝えたかったんだ。僕が、愁君のことをずっと、好きだったことを。」 響君の顔が辛そうだ、、、 今まで響君の思いに気づけなかった、、 気づかないせいで、無神経なことを言った、、 それなのに、どんな時でも優しくしてくれた、、、 こんな僕を好きだと言ってくれている、、 ずっとそばにいて支え続けてくれた響君に何も助けてあげられない、、、 本当に最低だ、、、僕は、、、 「ごめん、、ね、、」 僕の目から涙が溢れる。 「謝らないで。僕ね、愁君に出会えて本当によかったんだ。もし、愁君があの時、ブラスバンド部に誘ってくれなかったら、僕は一生音楽をやらなかったと思う。愁君は、僕の人生を変えてくれたんだよ。」 響君が優しく微笑んだ。 「ごめん、、ごめんね、、こんなにも、優しくしてくれたのに、、僕は、、」 涙が止まらなかった。 響君がそっと抱きしめてくれる。 「僕のために泣かないで。愁君は、笑顔の方が似合ってるよ。本当にありがとね。」 僕は、抱きしめられながら泣いていた。 ただ、泣き続けた。 「あ、、り、がとう、、こんな、僕のそばにいてくれて、」 こんな僕に、ずっと優しくしてくれて。 ずっとそばにいてくれて。 ありがとう。本当に、ありがとう。 それから、しばらくして海外に旅立つ響君を空港まで送りに行った。 「行ってくるね!」 「うん!ここから応援してるね!!!」 「ありがと!またね!」 「またね!」 響君は最後まで笑顔だった。 響君が見えなくなるまで、今できる笑顔で手を振り続けた。 どうか、響君の未来が幸せでありますように、、 ―――――――――― (視点:響君) 空港で愁君と別れた後、僕は一人で泣いた。 そして、今までの記憶を思い出していた。 僕にとって、愁君は恩人で、いや、それ以上の存在で、音楽の世界に戻らせてくれた、かけがえのない人だ。いつしか、僕は、愁君が好きになっていた。 けれど、僕が好きになった時には、愁君は、すでに他の人が好きだった。 その思いはどんなことがあっても変わらなくて、、どうしても変えられなくて、、。いつも、愁君の中に、僕はいなかった。それでも、愁君のそばにいると、決めた。 文化祭の時、歌詞を見て、あの人に対する告白の歌詞だとすぐにわかった。 わかってはいても、その現実がたまらなく苦しくて、辛かった。 けれど、それでも、そばにいたかった。愁君のそばにいられなくなるのは、もっと辛いから、、。僕は、愁君を思って作曲をした。この曲でこの歌詞を乗せて、愁君に歌って欲しかった。あの時、愁君の歌を聞いて、僕に歌ってくれているかのように想像した。それは夢の世界で、どこまでも暖かく、愛に溢れた世界だった。 けれど、歌が終わって、愁君を見た。愁君が見る先には、僕はいないんだ。 それからも愁君は、僕ではない人を見続けてた。 愁君自身も叶わない恋だとわかっているのに、、。 卒業するまで、決して愁君の心は変わらなかった。 大学生になった愁君は少し変わった気がする。 前よりも明るくて生き生きしているみたいだ。そんな姿に、僕は益々惹かれていった。けれど、愁君の中には、いつまでもあの人がいた。 そして、成人式の日、事故があった。 その事故は、愁君を大きく傷つけた。僕が思っていた以上に、愁君にとってあの人は、大きな存在だと実感した。けれど、同時に僕の心は、汚れていた。 もう愁君の好きな人はいない。それなら、僕が愁君の喪失感を埋められるかもしれない。そうすれば、僕に振り向いてくれるかもしれない。わかってくれるかもしれない。けれど、愁君の中にいる人は、いつまでたっても出ていかなかった。二人は、見えない硬い絆で結ばれていたんだと思い知った。 僕の入る場所は、初めからどこにもなかったんだ。 けれど、最後に伝えたかった。 僕の思いを愁君に届けたかったんだ。 叶わない恋だとわかっていたけど、気づいて欲しかったんだ。 ただ、伝えたかった。 今までありがとう。愁君。大好きだよ。 ―――――――――――――

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