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9-5 夢と願いの木
大学卒業後、僕は、カフェでバイトをしていた。
ただ時だけが、虚しく過ぎて去って行く。
何度季節を巡っても、心の中に大きく空いた穴は、決して塞がることはなかった。
いつしか、三年の月日が過ぎた。
最近、よく同じ夢を見る。
海で楽しく遊んでいる場面。
メンバーは、男性八人で、僕、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君と、優ちゃんと凜ちゃんに似た人がいる。僕らは、楽しそうに仲良くふざけあっている。そして、いつも夢の終わりには、あの公園が出てきて、藤澤君に言われるんだ。
「結婚しよう」
その言葉を言われると、目が覚め、決まって泣いてるんだ。
なんだろう、この夢は、、
藤澤君はもう死んでしまったのに、、
もし生きていても、僕に告白するはずなんてないのに、、
けれど、実際に告白されたような錯覚に陥る。
それがとても不思議でならなかった。
そんなある日、皐姉が帰ってきた。
「ただいま!」
「おかえり!」
お母さんが出迎える。
「おかえり、」
僕も出迎えた。
「愁ちゃん!元気そうね!」
「うん、なんとかね、」
僕は、少しだけ微笑んだ。それから、家族みんなで、皐姉の近況を聞いた。
突然、皐姉は、真面目な顔で宣言した。
「私、結婚することにしました。」
「そうか。」
お父さんは、静かに頷いた。
「どんな人なの?」
お母さんが尋ね、皐姉は、結婚相手のことを楽しそうに話している。その楽しそうに話す姿を見ていると、ふと涙が落ちた。
「愁ちゃん?」
「あっ、ごめんね、、」
涙が落ちた理由がわからない、、
ただ、羨ましかったのか、、
僕は、黙って二階に上がり、机の引き出しから一枚の写真を取り出した。それは、海メンで行った時に、たまたま藤澤君と2ショットが撮れた写真だ。
写真に写る藤澤君は、優しく笑っていた。
この写真は僕の宝物なんだ。
恭君、、、、、、
ふと口から出る言葉。
僕は、写真を抱きしめながら泣いていた。
トントン
「入るね。」
心配した皐姉が部屋に来た。
「あっうん、、」
僕は、すぐに涙をぬぐった。
「大丈夫?」
「うん、、」
皐姉は、僕が持っていた写真に気づく。
「まだ、忘れられないんだね、、」
皐姉がそっと手を握ってくれた。その優しさに触れ、涙が自然と溢れ出す。
皐姉は、きっと僕の気持ちに気づいているんだ、、
けれど、何も言わず、ただそばにいてくれた。
トントン
夏姉も来た。
「愁も食べなよ!」
その手には、皐姉が持ってきたお土産を持っていた。
「あり、がとう、、、」
一つ、チョコレートを食べると、とても甘かった。
「元気だしなよ!」
僕は、あの出来事以来、家族に支えられ続けていた。
その温かさに何度も助けられ、あらためて、家族はいいなと思う。
この家族に産まれてよかった。
いつしか涙が溢れ止まらなくなってしまった。
気づくと、泣き疲れて、眠りについていた。
またいつもの夢だ。
いつもの八人で海で遊んでいる。そして、場面は変わり、あの公園へ行き、藤澤君に結婚を申し込まれる。
ここで目が覚めると思っていたら、声が聞こえた。
(頼むから、、、、起きてくれよ、、)
切ない声が聞こえる。
誰かが僕を呼んでいるような気がした。
そして、夢から覚めると、また、泣いていた。
あの声は、なんだろう、、、
僕は、なんとなく学校へ行ってみたくなった。玄関を出ようとした時、
「どこへ行くの?」
お母さんに尋ねられた。
「ちょっと、散歩してくるね、」
「気を付けてね!」
「うん、」
玄関を出たら、なぜだかわからないけれど、涙が溢れた。
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