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第3話

 シロはヘビらしい(?)ノロノロとした動きで俺の体に触れてきた。今になって俺は恥ずかしくなってくる。夕方風呂に入っておいてよかった。しかし電気はつきっぱなしだ。でも暗くしたらシロが急に変な化け物とかになって、頭から食べられたりしないかと考えるとめちゃくちゃ怖い。こんなんじゃ、勃つもんも勃たない気がする。  シロは俺の気持ちなんておかまいなしで、恩返しをする為に俺の股間に手を伸ばす。触れてきた指先は少しヒヤリとして、ヒィッと体が縮こまった。やっぱり、やっぱりこんなことダメだ、無理だ。 「し、シロ、あの、」  俺はシロを止めようとしたんだ。したんだぞ。なのにシロ、ムードも情緒もあったもんじゃないんだ、いきなり、俺のモンをパクッと! 「ひいーーっ!」  食べられる! という恐怖心しかわかない。しかし俺のでかい息子を迷いなく口に入れたのは流石ヘビなんだけど、いやもうそういう問題じゃない。こんなのは無理だ! とりあえず、シロがヘビであることを忘れられないことには、どうしようもない! 「し、シロ!」  声を上げて、なんとか離れさせる。シロはきょとんとした顔で俺を見ているから、その肩を掴んで、言って聞かせる。 「あの、あのな、シロ。人間の交尾は、その、入れて終わりとかじゃないから、その……」 「……?」 「雰囲気が大事なんだ、だからその、……急に触られてもダメなんだよ、なんていうか……」  ムードや前戯について、どう説明していいやら。ヘビにそんなモン無いだろうし。シロはしばらく困ったような顔で首を傾げていたが、やがて「神田様」と口を開いた。 「このまま私が拙い奉仕をしても、神田様をご満足させることはできないでしょう」 「お? お、おぉん、じゃあ、諦めて……」 「私の事をメスだと思って、交尾してくださるわけにはいきませんか?」 「えっ、いや、だから、雰囲気がさ、いるんだよ。その……俺としては、シロをその……穴とだけ認識しては、抱けないわけ……わかる……?」  言ってて恥ずかしくなってきた。俺は何をしてるんだ。ヘビ相手に紳士的な態度なんてとっても仕方ない。諦めろって追い出せばいいんだ。だけど、俺のためになんとかしようとしているシロを、無碍にもできない。こういうところが、俺のダメなところだ。 「……わかりました……」 「あっ、わかってくれた? じゃあ……」 「神田様、本当に申し訳有りませんが……」  恩は返せないと言ってくれるのかと思ったのに、シロはとんでもないことを言い出した。 「人間の交尾の仕方を、教えて頂けませんか……?」  なんだって、シロはそうまでして恩返しをしたいんだ。それで、俺はなんだって、律儀にその申し出に付き合おうとしてるんだ。  俺にもよくわからない。わからないが、することしないと諦めてくれないなら、そうするしかないじゃないか。  まずは抱擁の仕方を教える。体を密着させて、体温を感じ合う。これはヘビにも理解は有るらしく、腕を絡ませて応じてきた。少し身体をくねらせるような仕草はヘビっぽいが、シロの体は温かいし、抱き寄せると、はぁ、とうっとりしたような吐息を漏らすのは、色香があって俺も安心した。  頬にキスをしてみる。シロは不思議そうな顔をして、それから真似をして俺の頬に唇を寄せた。なるほど、手本を見せてやればいいのか。ちゅ、ちゅとキスを繰り返すと、シロが拙いキスを返してくる。真っ赤な瞳で俺をじっと見つめているから、「キスする時は目を閉じるんだぜ」と教えてやった。 「キス。これはキスというんですね」  うん、と頷きながら、こいつはどうしてこんなに知識が無いのに、御奉仕できると思って来たんだ? と不思議になった。普通自信有るから言い出さない? 夜のお世話するとかさあ。なんでやった事ないのにできるって言いきっちゃってんの? 変なところで強気だよなあ。  まあいいや。怖いけど、そーっと唇にキスをしてみる。やっぱり何をされてるのかわからないみたいなシロはマグロだったけど、舌でなぞると僅かに唇を開いてくれたから、そのまま舌を侵入させる。シロは驚いたみたいに少し目を見開いたけど、やっぱりマグロだった。  舌を絡めて、ディープなキスをする。先に言っておくけど、俺、前にも言った通り、経験が少ないんだ。もちろん、男となんてしたこともない。だからその、上手くない、絶対。ついでにヘビの申し出に乗っちまうぐらいには、溜まってる。幸いシロの口の中には牙みたいなものも無さそうだし(いや、たぶん有るっちゃ有るんだけど、ご親切に限りなく人間の犬歯に近い感じにしてある気がする)、俺はシロと久しぶりのキスを楽しんだ。  シロもわけわからんなりに一生懸命応えてくれてるみたいで、じっくり時間をかけて体と舌を絡ませていると、流石に興奮もしてくる。俺ばっかり興奮しても仕方ないんだけど、素晴らしいことにシロの方も、少し息が上がってきていた。  何も知らない処女にいけないことを教えているんだ、と考えたら、途端にムラムラしてきた。違う、違う、俺はそんな変態趣味は無い、無いんだ、少なくともこれまでは無かった。違うんだよ、シロがめちゃくちゃ美人なのが悪いんだ。なんなの? この美形。顔も整ってて、白い体はしなやかだし、まるで絶世の美女になんかついてるみたいなんだもんな。ていうか白ヘビっぽいの色だけじゃん。  そう、とびきりの美人に惚れられてしまって、一晩過ごす事になったんだ。そう思えば、問題無くシロを抱ける気がしてきた。きちんと再現された耳に甘く噛み付いて、シロ、と名前を呼ぶと、シロの体がわけもわからず震えて、神田様、と吐息混じりに名前を呼んでくるのが、まあ、なんだ。一言で言えばエロくて、俺は、元気になってしまった。まあ、うん。ね? うん。  たぶん抱ける。俺はその時確信しちまったんだよね。

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