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第壱話・飛べない鳥。(一)

 夜気に包まれた帳の中で有明行燈(ありあけあんどん)が微かに灯る。六畳ほどの小さな割部屋で、大瑠璃(おおるり)は今夜もまた、褥の上で身体を開いていた。 「……ふ」  華奢な身体がしなやかに褥を舞う。褥の上で乱れる度に、肩まである色素の薄い髪が褥に散らばっていく――。  睫毛の紗に覆われた栗色の目が潤み、紅を引いた唇が艶やかな甘い声を上げる。その姿を見た誰しもが一目で気に入り、どっぷり嵌るのも無理はない。  褥で乱れ舞う大瑠璃の姿は官能的だった。 「ここが()いのかい?」  でっぷりとした図体の男は手を伸ばし、大瑠璃の共襟に忍ばせる。ツンと尖った桜色の蕾を思いきり摘み取った。 「――ん」  強く摘まみ取られ、痛みを感じるはずのそこは、しかし痛みはない。けれども痛みを感じないのはけっして快楽に溺れたからではない。  大瑠璃の感覚の何もかもが麻痺してしまったからだった。  なにせ大瑠璃が歩んできたこの人生は好きこのんで選んだ道ではない。両親や世間から捨てられた卑しい身分の自分が生き抜くために仕方なく選んだ道だった。  同性に抱かれる悲しみ、苦しみ、そしていくら頑張っても報われることのない深い絶望。  ――次から次へと自分の身に降りかかる不幸。そのおかげで麻痺してしまった心はもう、幸福を感じることはない。  苦痛を苦痛だと相手に伝えることもできない大瑠璃は、この花街(はなまち)という(くるわ)で働く美妓として育った。  大瑠璃はお客にされるがままの日々を虐げられ、過ごしていた。

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