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第弐話・苦痛と深い悲しみと。(三)

 口づけも、秘部を弄る指も、すべてが不快だ。 (……離して) (俺に触れないで……)  そう言いたいのにこの行為を拒絶できない大瑠璃は、ただただ耐えるしかない。 「っふ、……んぅ……」  込み上げてくる吐き気を抑え込み、大瑠璃も感じているふうを装って自らも山本の肉厚な唇を吸い上げる。  ――……。 「それじゃあね、大瑠璃」  ようやく解放された大瑠璃は、去っていく山本の丸い背中を見つめながら深いため息をついた。 「相変わらず、お前のお客は情熱的だな……」  唐突に背後から声をかけられた。  この声の主を大瑠璃は良く知っている。  大瑠璃が振り返れば、やはりとも言うべきか、見知った顔があった。  化粧を施さなくとも白い柔肌は艶やかな黒髪と相まってとても綺麗だ。長いまつ毛に覆われている大きい一重の目。その下にある小振りな唇はふっくらとしていて、まるで日本人形のように整っている。  一見女性と見まごうほどの華奢な身体と容姿をしているが、彼も大瑠璃と同性だ。彼は花街で一二を争う器量良しの娼妓で、名は金糸雀(かなりあ)という。  彼の年齢も大瑠璃と変わらない。大瑠璃とほぼ同時期にここへ来た。金糸雀もまた、その器量故に年期を過ぎていても花街に留まっていた。  だからこそ大瑠璃と金糸雀は本音を言える仲だった。顔を合わせれば何かと口喧嘩になってしまうのは仕方のないことだ。  それだけ大瑠璃にとって、金糸雀は何でも話せる気が知れた相手でもあったのだ。

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