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第参話・娼妓。(二)

 何十、何百というお客が大瑠璃の身体の上を土足で踏み荒らしていく……。  大瑠璃に言い寄ってくるお客は皆、そういう人間ばかりだった。  ――いや、心ないお客が馴染みになるのは大瑠璃に限ってではない。おそらく、郭に通うお客自体がそういう性質を持った輩ばかりなのだ。彼らは自分たち娼妓をただの性欲処理としか考えていない。  それは過去――。  ただ一人だけ、大瑠璃を人並みに扱ってくれたお客がいた。大瑠璃は一時期、ほんの少しの間、あらぬ夢を見てしまった。  彼の傍にいられたならどんなに幸せだろうと思いを馳せたこともあった。しかしそれは大きな間違いだった。本人が過ちに気付いた頃にはもう既に遅く、身も心もぼろぼろになっていた。  過去の一件ですっかり穢れてしまった身体。  信じていた男性に裏切られ、ずたずたに引き裂かれた心。  過去に経験した出来事は大瑠璃の心に深い傷を残した。  そしてお客たちにとって、所詮娼妓はただの人形でしかないことを知った。  身体に染みついた穢れはけっして落ちることはない。  清めても清めても、一向に綺麗にならない。  大瑠璃はすっかり穢れてしまった自分の身体を拭うのを諦めて、ようやく浴場を後にした。  乾いた手ぬぐいで身体に絡みついた水分を吸い取らせ、折りたたまれている薄花桜色の長襦袢に手を伸ばせば、ふいに二本の細い腕が目の前に現れた。 「はい、大瑠璃様」  彼は長襦袢を差し出した。  声はまだ高音で、幼さが残っている。

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