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第参話・娼妓。(三)
「花鶏 、こんな今時分にいったいどうしたんだ?」
目の前にいる彼を見るなり、大瑠璃は口を開いた。
「金糸雀様に、大瑠璃様がどちらにいらっしゃるのかお聞きしたら、こちらではないかとおっしゃられましたので……」
花鶏は今年で十一歳になる大瑠璃の禿 だ。
少年の彼はまだ表情も幼く、とても可愛らしい顔立ちをしていた。
お団子に結っている黒髪とは対照的な色白でふっくらとしたもち肌に小さな顔。父親譲りの大きな翡翠色の目と真ん中にちょこんと乗っている小振りな鼻が印象的だ。
こんなに可愛らしい花鶏が水揚げをする頃にはとても美しくなるに違いない。本人が望んでも望まなくとも、将来は花街の御職になるだろう。
その花鶏がこの花街にやって来たのは一年前だった。
彼の父親は異国人で、母親が日本人だ。そんな二人が結ばれ花鶏が生まれた。
直後、両親は不幸な事故で他界してしまい、親戚中をたらい回しにされた挙句の果てに売られて花街へやって来た。だから花鶏は人間不信に陥り、大瑠璃以外とは滅多に口をきかない。その彼が金糸雀を訪ねてまで大瑠璃を探しているのはいったいどういう了見だろう。
――いや、あらかたの予測はつく。
今の時刻、禿は朝食時に当たる。その禿を捕まえて自分を探している人物が誰かなんて簡単に想像できるし、だいたいの用も知れている。
(ああ、嫌な予感がする……)
今日のこれからのことを考えただけで大瑠璃の身体がずっしりと重くなる。
「えっと、楼主 様がお呼びです」
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