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第参話・娼妓。(六)
立派なソファーのそこには見知った二人の姿があった。どうやらこの二人も大瑠璃と同様、楼主に呼び出されたらしい。
大瑠璃がソファーから視線を上げると、ラウンジチェアに腰掛けている人物を捉えた。彼こそが楼主その人である。
楼主といえば経験豊富な年配のイメージだが、彼は違う。
年の頃なら三十代前後。肩まであるやや長めの金髪に垂れた目尻。一見すると優男のように見えるが、この花街をたったひとり彼の代で大きくしたのだ。かなりの遣り手であることが窺える。
その楼主の服装は娼妓たちとは違い、ビジネスマンのごとくグレーのスーツを着用していた。
「よく来てくれたね、待っていたよ大瑠璃」
姿を現した大瑠璃を見るなり、楼主は微笑みを浮かべ、ラウンジチェアから立ち上がった。
にっこりと微笑を浮かべていても彼が油断ならないのはもう知っている。大瑠璃は礼儀正しく頭を下げた。
楼主が腰を上げたのを合図に、ソファーにいた二人も立ち上がる。その内の一人は楼主と同じ年頃の、|守谷 和正《もりや かずまさ》。
大瑠璃と変わらない背丈の守谷は、鋭い眼孔と細い目を隠すように黒縁眼鏡がかけられている。襟足よりも短く切りそろえられているクセのない黒髪が印象的だ。
彼はここ、花街で働く大瑠璃たち娼妓の一切を取り仕切る差配人を担っていた。その彼もまた、楼主と同じく常日頃からスーツを着用している。
そして守谷の隣にいるもう一人の人物。彼はここの上を張る金糸雀だ。
彼の身なりは今朝方、大瑠璃と大門で鉢合わせた時よりもきちんとしている。
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