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第四話・出会い。(一)

 時刻は午後一時五十分。時期に昼見世がはじまる。  ――とはいうものの、昼見世は夜見世ほど賑わいがない。  だから娼妓たちは皆、昼見世を営む敷居の中でお客に渡す文や家族に宛てた手紙を書いたり、本を読んだりして気楽に過ごしていた。  そして大瑠璃(おおるり)――というと、やはりとも言うべきか。楼主(ろうしゅ)直々に下された命令が億劫で仕方なかった。  いくら今日限りの仕事だと自分に言い聞かせても、自分たち娼妓を見下すお客に尽くさねばならないのはどうにも気分が乗らない。  身体を張って懸命に生きている自分たち娼妓を見下す輩から金をせしめることもできず、愛想笑いを振りまき慰めるなんてまっぴらだ。  そんなことを考えると結局眠ることもままならず、こうして今の今まで怒りを溜め込んで鬱々とした気分を過ごしていた。  時間が経つ毎に苛立ちは増していく。  あまりにも苛立ちすぎたおかげで、狭い景色の中をじっとしたままではいられなくなった。  そこで大瑠璃は退屈な昼見世から抜け出すことにした。  なんといっても自分は今夜、大切なお客の接待という大役を楼主から仰せつかっている。しかもお客から揚代の他に御勤(おつと)め品は頂かないという約束もさせられたのだ。  ならば儲けが少ない昼見世から抜け出すくらいは許されるだろう。  大瑠璃は堂々と昼見世を出ると二階の自室に戻り、今朝方に着ていた葡萄酒色(ぶどうしゅいろ)の着物に着替えて外の街へと繰り出した。

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