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第四話・出会い。(三)
突然ぶっきらぼうな物言いで大瑠璃に声を掛けられたものだから、男は驚いたようだ。振り向き様、長いまつ毛に縁どられた二重の茶色い目を見開いた。
けれども声を掛けた相手が娼妓だと理解すると、表情も戻った。
「――いや」
男は静かに首を横に振る。
「――――」
やはり子猫は捨て猫だったようだ。
苛立ちが苛立ちを呼ぶ。
今朝方から溜まりに溜まっていた鬱々とした苛立ちにさらなる輪がかかる。
「それで? あんたはその子猫を飼ってやるの?」
「――いや」
大瑠璃の問いに、しかし男はまたしても首を横に振った。
そこで大瑠璃は男の身形をざっと確認した。
年は二十七、八。紬を使った反物だろう、紺色の着物を身に纏っている。綺麗な象牙色の肌に、すっと通った鼻筋と弧を描く薄い唇。整った目鼻立ちをしている彼はかなりの美形だ。
遊郭が立ち並ぶこの地域に昼間から仕事もしないでこうして猫と戯れているところをみると、おそらくこの男は上流階級の出だろう。
だからだ。男は捨てられる子猫の気持ちさえ汲み取れず、暇つぶしに子猫と戯れることができるのは――。
そうやって彼らはいつも自分たちを見下す。
この吉原で暮らしている自分たちがどれだけ大変な目に遭っているのかさえも知ろうとしない。
大瑠璃は男の立場をあらかた把握すると、苛立ちが極限に達した。
握った拳に力が入る。
「飼う気もないのに優しくするな! アンタに懐いたその子猫がこの後どういう気持ちになるのかわかる? 引き取るつもりがないなら端っから優しくするな! 期待させないで! 猫だって生き物なんだからなっ!」
大瑠璃は自分の立場も忘れ、思いのまま怒鳴り散らすと足早にその場を後にした。
《第四話・出会い。・完》
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