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第伍話・初会。(三)

 この座敷内では彼が責任者なのだ。  依然として頭を下げたまま守谷を窺った。 「さあ、お行きなさい」  守谷から合図され、はじめて顔を上げることを許される。そうして大瑠璃と金糸雀はお客の容姿を視界に入れた。  上座に座っているお客の一人は年の頃なら二十代後半くらいだろうか。短髪の黒髪に、武道でも(たしな)んでいるかのようなしっかりとした広い肩幅をしている。少し太めの眉は凛々しく、目鼻立ちもはっきりしている彼は、着ている紫黒色の反物がよく似合っていた。  そして――。  もう一人のお客は……と、大瑠璃が焦点を合わせた瞬間、息を飲んだ。 「君は……」  驚いたのはお客も同じだったようだ。茶色い目が見開かれていた。 「顔見知りだったのか?」  連れのお客が例のお客に訊ねる。  顔見知りどころではない。大瑠璃はこのお客をよく知っている。何しろ大瑠璃が今日という一日中を悶々と過ごしているそもそもの原因は、目の前にいるこのお客にあるのだ。  このお客は茶屋裏で出会った無神経な男だった。ありがたい事に、服装は昼間会った時のままだ。おかげで彼をひと目見てすぐにわかった。  しかしいったい誰が、例の男とこの花街で再会すると予測できただろう。大瑠璃はまさかの出来事に苛立ちを隠せない。  では、あの茶屋裏で見た白猫はどうなったのだろう。  彼がここにいるということは、おそらく白猫はあのまま放って置かれたのだろう。なにせこの花街は小動物の出入りを良しとしていない。  当然、お客はこの郭内に動物を持ち込んではならない決まりになっている。

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