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第伍話・初会。(四)

 ……可哀相に。せっかく自分を拾ってくれると思ったあの子猫は、あっさりと裏切られたのだ。  この、無神経な男に!  そう考えると、大瑠璃の苛立ちは増すばかりだ。三つ指をついている指に力が入る。 「ここは初めてだろう? いったいどこで知り合ったんだ?」 「ああ……いや、ちょっとね」  金髪の男は連れのお客にそう言うと、苦笑を漏らした。  対する大瑠璃は、その男の言動にますます憤りを感じるばかりだ。  このお客にすれば、『ちょっと』のことでも、あの子猫にすれば、『一生を狂わせるくらいの一大事』でもある。  嫌が応にも接待をしなければならないと考えるだけで、はらわたが煮えくりかえる。もはやもてなすどころではない。  そんな大瑠璃を余所に、金糸雀はひとつお辞儀すると、すぐに黒髪のお客へと歩み寄った。  そうなると、大瑠璃は必然的に例の無神経男の相手をしなければならない。  いくら自分がお客をヒモにしていても、それでも大瑠璃は花街の娼妓だ。自分のわがままで花街の名を汚すことはできない。  引きつる口角を必死に上げて微笑んでみせた。 「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね、僕は間宮 輝晃(まみや てるあき)、こっちは友人の栄 岳(さかえ がく)だ。よろしくたのむよ」  こちらは苛立ちを隠せないほど怒っているというのに無神経な彼はあまりにも軽々しい笑顔を向けてくる。  大瑠璃はもう我慢の限界だった。  とうとうそっぽを向き、唇を尖らせた。

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