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第伍話・初会。(五)

「大瑠璃! お客様の前です」  無作法な大瑠璃を咎める守谷の声が座敷中に響く。きっとこの後こってり絞られるだろう。けれども今はどうでもいい。  とにかく、このお客が気に入らない。 「嫌われてしまったかな……」  間宮の口元が歪んでいる。  苦笑する彼の息が大瑠璃の頬に触れた。そんなに至近距離にいるのかと思うと、大瑠璃はますます苛立った。  とにかく、このお客の所作のことごとくが大瑠璃の(しゃく)に触る。 「どうせまたお前が嫌われるようなことをしたんだろう?」  苦笑する間宮を、いつものことだと栄が咎めた。 「大瑠璃!!」 「いいよ、かまわない。岳の言うとおり、僕がいけなかったんだから……」  いくら大瑠璃が上位の娼妓であっても、相手はお客に違いない。自分は十分、無作法だ。  接待する娼妓を代えろと怒鳴られてもおかしくないのに、しかし彼は苦言のひとつも言わず、依然として大瑠璃を隣に座らせ、微笑んだ。 「――――」  このお客はよほどの阿呆なのか、それとも懐が深いのか……。  大瑠璃は相手の腹の内を探ろうと、目の前にある端正な顔立ちを穴があくほど見つめる。 「大瑠璃!」 「いいよ、僕は気にしていない」  一向に言う事を聞かない大瑠璃を咎め立てる守谷に、けれど間宮は冷静だった。彼は守谷を宥めた。  責められるべきはこのお客、間宮だ。  それなのに、いつまでも腹を立てている自分の方が責められる。  これでは駄々をこねている子供のように思えてくる。  不作法な娼妓の所作を一向に咎める様子のない間宮の態度がさらに大瑠璃の心を逆撫でする。

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