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第伍話・初会。(六)
「さ、気を取り直して今日はたくさん遊ぼうか」
そんな大瑠璃の心境も知らない間宮は守谷に目配せをした。
守谷が手打ちして合図すると、固く閉ざされていた両脇の麩が開かれた。
娼妓たちが一斉に姿を現す。彼らは皆、日頃の鍛錬の成果を披露するため、座敷の上でそれぞれが優雅に舞いはじめる。
そんな中、気に入らないお客の隣でそっぽを向く大瑠璃は内心初会でよかったなどと安堵していた。
初会というのは格式が高い遊郭独特のしきたりだ。たとえ相手がお客であってもここで働く娼妓もお客を見定める資格はある。
金糸雀はこの花街という看板を背負う娼妓だ。そして大瑠璃もこんな調子だから上を張ることはできないものの、器量良しとしてはかなりの人気を誇っていることも事実。だから大瑠璃と金糸雀は今日、はじめて接待したこのお客に抱かれることはない。
要はこのお客が花街の娼妓たちに認められなければ今後一切関わりを持たない。この初会ではお客の財力と器量が試される。娼妓たちにそれを示す必要があった。
「あっ、そうだ。昼間、君に言われて気付いてね、あの子猫を飼うことにしたんだ。ほらあの白猫、僕に似て美しいからね。すっかり気に入ったよ」
果たして間宮は何と言ったのだろうか。
美しい舞踊と共に、三味線などの耳障りの好い音色が奏でられる。その中で、そっと耳打ちされた言葉に大瑠璃は眉根を寄せた。
隣に視線を重ねれば、茶色い目を細めて微笑む間宮がいる。
「うん、僕も舞おうかな」
間宮は誰に言うでもなくそう告げると立ち上がり、帯に差してあった扇子を片手に、踊りはじめた。
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