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第七話・裏。(一)

 久しぶりに泣いたその日、目を真っ赤に泣き腫らしてしまった。それに加えて、過去の苦い記憶も思い出して気分も上がらない。これでは昼見世にも出られない。  大瑠璃は花鶏が綺麗にしてくれた床で大人しく横になることにした。  このまま――夜見世も休んでしまおうか。そう考えるが、甘えは許されない。間宮と栄がまたこちらを指名したと、今朝方、花鶏の口から楼主の言伝を聞かされたからだ。  これには大瑠璃も驚きを隠せなかった。だって昨日、自分はことごとく間宮を無視した。お客を立てない自分は娼妓失格だ。  だからてっきり他の娼妓に代えるよう、要求してくると思っていた。しかし、相手は裏も大瑠璃を指名すると言う。  裏とは、別名を裏会といって、廓言葉では二会目に会うことをいう。この会でも初会同様、指名されたお客と同じ床には入らないが、会えば会うほど親密さが増すのはたしかだった。  もし、今夜、間宮がまた皆に好かれれば――。  間宮が大瑠璃を気に入れば――。  この次は三会目を迎える。そうなれば、大瑠璃はお客と床を共にする。  しかし、夜伽なんて今さらだ。大瑠璃はこれまでたくさんのお客に抱かれている。今さらどうということはない。  寝転びながら、お客との付き合い方を考えていると、時間が過ぎるのは早い。あっという間に夜見世が始まり、時刻は午後五時を回った。  斯くして、煌びやかな衣装をまとった金糸雀と大瑠璃は、昨日と同じく藤の間で、登楼した間宮と栄の相手をすることとなった。

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