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第七話・裏。(二)
「どうしたんだい?」
間宮は隣に座っている栄と、彼に酌をする金糸雀に聞こえないよう、大瑠璃に訊ねた。
訊ねられ、そこではじめて顔を上げれば、彼の整った眉尻が下がっている。
「――――」
彼はなぜ、自分を心配するような素振りを見せるのだろう。
思いもしなかった言葉をかけられ、大瑠璃の思考が停止する。
下座では美しい音楽を奏で、音楽に合わせて舞う美しい娼妓たちがいる。普通のお客ならば、隣にいる無愛想な娼妓のことなど放っておいて祝儀を渡し、自分の格を知らしめるものを――しかし彼は違った。
「目が赤いよ?」
間宮は人差し指で自分の右目下をトントンと叩いて、大瑠璃が泣き腫らした真っ赤な目を指摘した。
今日は泣いたことを誰にも悟られないよう、いつもよりずっと前髪を多く垂らし、頬紅も厚く塗りたくっている。泣き腫らした目のことなんて誰も気付かなかったのに――。
間宮にとって、自分はただの卑しい身分の娼妓だ。そこまで注意深く見られていたなんて知らなかった。
大瑠璃は内心驚いた。
――いや、そうではない。彼だって他のお客と変わらない。大瑠璃の容姿を気にしたのは同じ座敷にいるからこそだ。彼が訊ねたのは大瑠璃を心配したのではなく、目を泣き腫らした見窄らしい娼妓が目障りだったからに違いない。
それ以上にもそれ以下にも格下の自分なんかに情があるわけがない。
いくら優しい言葉をかけられたのが久しぶりすぎるからといって、そんなふうに思ってしまう自分はどうかしている。
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