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第七話・三会目。(一)
――明くる日。夜見世がはじまる頃。間宮 は大瑠璃 の元に登楼を果たした。初会も裏でも、考えられないほど散財をして大盤振る舞いを見せた間宮は娼妓たちに好かれた。楼主 との約束上、大瑠璃から登楼を拒めないのなら仕方がない。こうなったら間宮の方から愛想を尽かして貰うしかない。
――ともすれば、自分は他のお客同様、間宮からも金子を搾り取るだけだ。楼主だってわざわざ褥でのやり取りを根掘り葉掘り聞くような野暮はしないだろう。少しくらいはいい目を見たって罰は当たらないはずだ。
それなのに……。
なぜだろう。間宮が相手だと背徳を感じるのは――。
後ろめたい気持ちになるのを無視して、大瑠璃は有明行燈に火を灯し、六畳の自室へと間宮を通した。
箪笥や文机の前には夜具が敷いており、夜具の前には『間宮 輝晃 』と彼の名前が書かれた膳と箸が用意してある。
三会目で、晴れて馴染みになる儀式が用意される。
その儀式とは、大瑠璃たち娼妓はお客から手渡される金子が入った祝儀を受け取る。そして大瑠璃は名前が入った膳を差し出す。お客が差し出された膳に手をつければ、彼は晴れて大瑠璃の馴染みとなるのだ。
馴染みともなれば、どんなに財を持つお客よりも優遇され、登楼さえすれば優先的に扱われる。
けれどもいいことばかりではない。一度娼妓の馴染みになってしまえば最後。他の娼妓の元へ通うと浮気になり、他の郭でも後ろ指を差されて生きていくことになるのだ。
――果たしてこの男、間宮はこれらのことを理解しているのだろうか?
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