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第拾四話・珠簪。(一)

 その日の日中。大瑠璃(おおるり)間宮(まみや)と外出することになった。  見上げれば、青空に流れる筋雲が見える。  柔らかな真っ白い日差しが心地好い。  冬の研ぎ澄まされた清らかな空気を思い切り吸い込めば、身体中に清涼感が満ちていく……。  郭の中ではこんなにもあたたかくて優しい気持ちにならなかっただろう。やはり間宮の言うとおり、外に出てみて正解だった。  けれどもひとりきりで外出しても意味はない。自分の隣に、こうして太陽のように力強い彼がいてこそだとそう思える。  ――とは思うものの、間宮の無頓着な気質には困ったものだ。  大瑠璃は今、この真っ昼間でも金糸で色取られた豪華な衣を纏っている。  いくら吉原の中を歩くといっても夜見世の格好では目立ちすぎる。  どんなに心地好い空の下であっても――いや、だからこそなのかもしれない。これでは自分の姿が気になって仕方がない。  だからせめて着替えたい。そう間宮に訴え続けた甲斐あって、彼はようやく大瑠璃の願いを聞き入れてくれた。  呉服問屋に寄って、日中に出歩いても差し障りのない着物一式を買い揃えた。  大瑠璃は今、木綿で誂えた独鈷縞模様(とっこしまもよう)銀鼠色(ぎんねずいろ)の着物に、椿模様(つばきもよう)の帯を結っている。これらは大瑠璃が着物屋に入るなりひと目で気に入ったものだ。  自分が気に入った着物は手に入れた。――けれども機嫌は(すこぶ)る悪い。  大瑠璃は眉間に深い皺を刻み、少し前を歩く間宮を睨んでいた。  大瑠璃が不機嫌な原因はやはり間宮にあった。  それというのも大瑠璃が着ているこの着物。

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