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第拾四話・珠簪。(二)
勘定を支払ったのは間宮だからだ。
間宮からは十分すぎるくらいの登楼代を貰っている。しかも彼は今日、丸一日登楼 を果たすのだ。その額は考えるのも恐ろしい。
それに大瑠璃は昨夜から娼妓らしい仕事を何ひとつしていない。寧 ろこちらが迷惑をかけているばかりだ。だから着物代くらいは自分で支払うとそう言ったのに、間宮は、『自分の面子 に関わるから』とけっして頷かなかった。
そればかりではない。挙げ句の果てには珠簪 まで買う始末だ。
「――――」
たしかに、珠簪もとても綺麗だ。朱色の珠は見るからに高価なものだとわかる。けれどもそれはそれ、これはこれだ。着物ばかりかこうして簪 まで与えられては気が気ではない。
今や財布の中を気にしているのは大瑠璃の方で、当の本人は気楽に笑うばかりだ。
間宮以外のお客ならば、金子をふんだくってやろうと企んでいるところだが、彼ばかりはどうにも普段のようにはいかない。
それがまた癪に触るばかりだ。大瑠璃は頬を膨らませ、拗ね続ける。
「大瑠璃、あのね、僕は今まで金があっても使い道がなくてね。だからこうして使い道ができてとても嬉しいんだよ」
「…………」
そうは言うが、いくら何でもこれは散財しすぎだ。このような金銭感覚ではいつか必ず身を滅ぼしてしまう。好きな人が自分のせいで堕ちていくのは気分が悪い。
大瑠璃がむくれていると――。
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